「漢方で不妊体質を改善」
Fine会報誌 2009年春号(vol.19) より
    むつごろう薬局 薬剤師一同さん

■はじめに
皆さん、こんにちは。私たちむつごろう薬局は、静岡(静岡店・沼津店)と東京(青山店)で不妊症に力を入れております漢方薬局です。まず、私たちが“不妊症”に力を入れ始めたきっかけは、今から14年前のことになりますが、漢方薬を飲んで妊娠されたお客様に「赤ちゃんが欲しい」という雑誌(主婦の友社)で、喜びの声を載せて頂いたことがきっかけでした。漢方薬局には、いろいろな病気でお悩みの方がご相談に見えられますが、不妊症の方に赤ちゃんができた時の喜びは格別です。そしてこの喜びは、私たちむつごろう薬局薬剤師のやる気の源でもあります。またさらに、少しでも質の良い生薬をと、2002年より不妊症の妙薬である“当帰(とうき)”の自社栽培も始めました。空気と水の澄んだ伊豆半島の山頂で、当帰の中でも最高級といわれる大深当帰(おおぶかとうき)の無農薬有機栽培をしております。薬剤師自らがハチに刺されたりしながら泥んこになって奮闘しております。畑の状況などはブログ(=赤ちゃんが欲しい人のための生活習慣)で更新しておりますので、ご興味のある方はぜひ御覧ください。
(むつごろう薬局ホームページから検索できますhttp://www.mutsugoro.co.jp)
また、今回は、私たちが今まで経験してきた不妊症と漢方についてや、赤ちゃんを授かるために必要な食生活・運動などについて簡単にまとめてみました。わずかながらの力ですが、皆さんに丈夫で元気な赤ちゃんが授かることを、むつごろう薬局スタッフ一同心より


■不妊症は病気ではありません…
今でこそ不妊症の患者さんは増えてきていますが、戦前や戦後直後の日本では子どもは一家に4~5人いて当たり前でした。では、たったこの60年の間に、私たちの身体に何が起こったのでしょうか。
新種のウイルスや細菌が感染したのでしょうか?
遺伝子が突然変異したのでしょうか?
いえ、そんなことはありえません。60年前の日本人と今の人とで大きく違うことは遺伝子ではなく、食事や運動などの“生活習慣”です。昔の人が今の人のように、甘い物や冷たい物を、たくさん食べていたでしょうか。自動車で移動し、一日中パソコンを使って仕事をしていたでしょうか。そう考えますと、私たちが今行なっている生活習慣を、昔の人の生活習慣に少しずつ戻していくことが、赤ちゃんを授かる最善の道になってくると言えます。


■冷える食べ物、食べていませんか…
冷蔵庫の普及に伴ない、私たちは知らず知らず身体を冷やしています。ヨーグルト・アイスクリーム・フルーツ・サラダ・野菜ジュース・ビール・ワインなど、冷蔵庫の中にある物は身体を冷やす物ばかり。なかには、健康に良いと思い、野菜ジュースやヨーグルトを毎朝摂っている人もいるようですが、これらの食品は陰性食品といって身体を冷やすので、不妊症の方は気を付けなければなりません。
御存知だとは思いますが、漢方では、“冷え”は不妊の原因になると考えています。例えば、アヒルは卵を孵(かえ)す時、お腹の下で卵を温めていますが、動物たちは、卵は温めないと育たないということを本能的に知っています。このことはもちろん、私たち人間も同じなのですが、自然とはかけ離れた状態で生活を送っている我々は、本能的な感覚が鈍くなっているせいか、お腹を冷やす物を食べたり飲んだりしてしまいます。また、お腹が冷えている人には、以下のような症状が出やすくなります。
・お腹を触ると冷たい、もしくは硬い
・お腹が張りやすく、ガスがよく溜まる
・生理痛を始めとした腹痛、腰痛などがある
・下痢や便秘(コロコロ便)を起こしやすい
・お腹の中で、水の音がチャポチャポすることがある
皆さんはどうでしたか?お腹を温める漢方薬には、温経湯(うんけいとう)や当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)などがあります。

【症例】37歳女性 身長160cm体重47kg 不妊歴7年
結婚して7年になるのですがなかなか赤ちゃんに恵まれず、体外受精を7回ほど行なったそうですが、1度は妊娠するものの5週目で流産したとのことでした。体質的には、寒がり、冷え性で、胃腸は丈夫ではありません。油っこい物や冷たい物などを摂り過ぎると、すぐにお腹を壊してしまいます。また、肩こりや頭痛、立ちくらみもあり、貧血気味だと言います。好きな食べ物は、パン・ヨーグルト・コーヒーなどです。
この方の体質は、元々胃腸が弱くて太りにくく、血虚(けっきょ)の状態です。血虚とは、血が足りない、貧血気味という意味で、この方の場合、血虚のために身体が冷え、赤ちゃんを育てる力が弱まっていると考えられます。そのためこの方には、まずは胃腸を丈夫にして血虚を改善する小建中湯(しょうけんちゅうとう)に身体を温める当帰(とうき)の入った当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)という漢方薬を処方しました。飲んで2~3カ月が経過すると、次第に顔色が良くなって下痢もしなくなり、だんだん身体が温まってくるのが分かるということでした。そしてその後の採卵の結果では、以前は2~3個しか採れなかった卵子が、7~8個採れ、グレードも良くなっているとのことで、2度ほど受精卵を戻しましたが、判定は陰性でした。ただ、体調が良いようなので、そのまま漢方薬を継続して頂いていたところ、そのまま自然妊娠され、無事出産することができました。


■甘い物(砂糖など)が不妊体質を作る…
女性の皆さんは、甘い物に目がないのではないでしょうか。チョコレート、アイスクリーム、クッキー、ゼリー、菓子パンなど毎日欠かさず甘い物を食べてはいませんか。
ところで、甘い物は、なぜこんなにおいしいのでしょうか?
答えは簡単、甘い物は私たちの身体にとって必要不可欠な“栄養(糖質)”になるからです。ただ、栄養になるぶん、身体はそれを体内に留めようとします。これを漢方では、?血(おけつ)と呼んでいます。?血(おけつ)とは、血液がドロドロとして滞っているような状態をいいます。例えば女性がよくなる子宮内膜症や卵巣のう腫は、元々、赤ちゃんが育つために必要な子宮内膜が、過剰に増殖することによって起こる病気ですが、これらの病気も、漢方では、?血(おけつ)が原因で起こると考えています。漢方では、栄養も過剰になると病気の原因になると考えています。
また、甘い物を摂り過ぎると身体に余分な水が溜まります。漢方ではこれを水毒(すいどく)と呼んでいます。身体が重たい、むくみやすい、めまい、低気圧が来ると頭痛がする、お腹の中で水の音がチャポチャポする、小便が遠い・もしくは近い、汗が出にくい・もしくは出やすい、じんましんなどの皮膚病が出やすい、アレルギー性鼻炎(グジュグジュの鼻水)などの症状がある人は、水毒がある可能性があります。また、体内に水毒があると、身体が冷えやすくなったり、血液の循環が悪くなったりして不妊の原因になります。
?血(おけつ)に水毒(すいどく)。身体にとっては必要な栄養(糖質など)や水も過剰に溜まると不妊体質になるので摂り過ぎには注意が必要です。

【症例】35歳女性 身長163cm体重59kg 不妊歴6年
結婚して初めの2年は基礎体温を見ながらタイミングを合わせていたそうですが授からず、病院へ行くと子宮内膜症と卵巣チョコレートのう腫があるとの診断。手術で部分的に除去し、クロミッドを使ったタイミング法を2年、AIHを6回、体外受精を2回ほど試されたようですが結果が出なかったため、漢方で体質改善をと御来局されました。
体質的には、顔色は赤ら顔ですが、足は冷えやすく、肩こり、頭痛、むくみ、便秘があり、顔にはシミがあります。また、生理痛は激しく、1日目と2日目は鎮痛剤を飲みます。時々不正出血があります。チョコレートのう腫は手術はしたのですが、また大きくなっており、右の卵巣のう腫は5cmくらいあります。好きな食べ物は果物・ケーキ・チョコレートなど。
まず初めに、この方の舌の裏側を見せてもらいますと、静脈が太く怒張しています(紫の血管が太く見えます)。これは、?血(おけつ)の症状です。他にも、シミ、便秘、肩こり、頭痛なども?血(おけつ)による症状で、むくみは水毒です。よって、漢方薬は、?血(おけつ)と水毒を同時に取り除く桂枝茯苓丸加?苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)を処方しました。この薬を飲み始めていかれますと、次第に便通が良くなり、生理痛なども軽減してきました。さらに半年ほど飲んで頂いたところ、シミも薄くなり、病院の検査でチョコレートのう腫がなくなっているとのことでした。お薬は体質に非常に合っているようでしたので、そのまま同じ処方を続けて頂いたところ、1年後に無事自然妊娠されました。


■ストレスは、妊娠力を弱めます…
不妊症の方のご相談を受けていていつも感じることは、皆さん、すごくストレスを抱えていらっしゃるということです。もちろん、「なぜ私だけ赤ちゃんができないのだろう」という悩みが引き金となって、次第に身体がストレスを感じ始めてくるのだと思いますが、それと同時に、不妊治療と仕事の両立、周りとの人間関係、誘発剤・ホルモン剤等による肉体への負担など不妊治療中の女性には、肉体的にも精神的にも、かなりのストレスが掛かってきます。
昔から、病は“気”からと言いますが、ストレスは、この“気”という目に見えないエネルギーを弱らせます。やる気の低下、元気が出ない、先への不安、くよくよ悩む、という方は、身体の“気”が消耗しています。
赤ちゃんは、元“気”のかたまりですので、お母さんの“気”が弱まっていると、なかなか産まれてこられません。
皆さんは、ストレスを上手く発散させていらっしゃいますか?私たちむつごろう薬局では、不妊治療に対しての不安や悩みなどをしっかりとお聞きすることで、少しでも“気分”が良くなってもらおうと心掛けています。何しろ、赤ちゃんを作るうえでは、“気”分はとても大切ですから…。それと、運動もしっかりやるようにお伝えしています。運動は、体力をつけたり、体温を上げたりするのと同時に、ストレス発散にもなりますので、不妊症の方にはかなりおすすめです。

【症例】39歳女性 身長156cm体重44kg 不妊歴9年
過去にAIHを6回、顕微授精を2回ほど行なったがダメで、体調を崩し、漢方で体質改善をと御来局されました。
この方の性格は、とても神経質で、くよくよしやすかったり、周りの人に気を使いやすかったり、取り越し苦労や不安感も強く、夜寝付けなかったり、途中で目が覚めることもしばしばあるようでした。また、生理の1週間くらい前になると、身体がとてもだるくなり、胸が張ったり、微熱っぽくなったり、イライラしたりします。病院では、自律神経失調症と診断され、精神安定剤などを飲んで眠ることもありました。
漢方では、こういう状態のことを“血熱証(けつねつしょう)”と呼びます。血熱とは、血液が熱を持っている状態のことをいい、身体が微熱っぽくなってだるくなったり、右脇腹が張って、肩や背中が凝ったりします。
こういう症状は、神経質な人が起こりやすく、漢方では、柴胡(さいこ)という薬草を使って、身体をリラックスさせて改善していきます。この方には、柴胡剤の中でも、特に神経質な方によく用いる柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)という薬を処方しました。

すると、1カ月2カ月と服用していくうちに、次第にだるさや微熱っぽい感じが改善され、夜もよく眠れるようになってきました。また、精神的な不安感なども少なくなってきて、とても体調が良いと言われておりました。そしてそのまま同処方を継続してもらったところ、5カ月後に無事自然妊娠されました。


■終わりに
皆さん、今回はあまり上手くない文章を読んで頂いて、とてもありがとうございました。皆さんの中で、何か参考になることはあったでしょうか。赤ちゃんは、授かりものですので、いくら漢方薬を飲んだところで、絶対にできるとは言い切れません。漢方薬は、ただ、人間の身体を最も健康な状態に近づけているだけです。私たち現代人の身体は、食生活の乱れや運動不足によって、本来持っているはずの自然治癒力(妊娠力)が弱まっています。
皆さんもこれを機に、しっかりと体質改善をされ、丈夫で元気な赤ちゃんを授かるよう頑張ってみてください。むつごろう薬局スタッフ一同も心より応援しております。

【生い茂る初夏の当帰(むつごろう畑より)】 【当帰の天日干し(雪積もる伊豆半島の山頂にて)】



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