「不妊治療・経済的な負担を考える」
〜不妊治療環境向上アンケート結果より〜

NPO法人Fine 松本亜樹子

このレポートでは、NPO法人Fineが行なった 「不妊治療環境向上アンケート」 の中から 「経済的負担」 についての結果をご紹介します。
不妊治療にかかる経済的な負担はたいへん大きく、それが原因で不妊治療をやめなくてはならない場合も少なくありません。その負担を当事者はどのように感じているのか、具体的に聞いてみました。

アンケートは2005年5月に実施。全部で246人が協力してくれました。その年齢は25歳以下が3人(1%)、26歳〜30歳が49人(20%)、31歳〜35歳が89人(37%)、36歳〜40歳が71人(29%)、41歳〜45歳27人(11%)、46歳以上1人(0.4%)、その他(無回答)6人(2.5%)で、30代が全体の約66%を占めています。

不妊治療の有無については、 「現在も治療中」 が183人(74.4%)、 「現在休憩中」 が28人(11.4%)、 「以前治療していた(現在はしていない)」 が33人(13.4%)、 「していない」
が2人(0.8%)でした。ほぼ全員が治療を経験しているため、患者の切実な声が反映されたアンケートになったと思います。
「何年ぐらい治療を行なっていたか?」 の問いには、「1年以上〜3年未満」 と答えた人が一番多く105人で全体の約43%、次は 「1年未満」 と 「3年以上〜5年未満」、「5年以上〜10年未満」 と答えた人が、ほぼ同数でした。



不妊治療に使ったお金、合計いくら?
では、みんなはこれまでの治療に、いったいどれぐらいの金額を費やしたのでしょうか。
「不妊治療に使った総額費用は?」 の問いには、「100万円未満」 と答えた人が121人と一番多く、全体の約半数を占めました。金額が大きくなるほど人数が少なくなりますが、1000万円以上という人も2人いました。一つの治療にこれだけの金額を要するのは恐らくまれなことでしょうから、不妊治療の経済的負担の大きさを示していると思います。
また、妊娠しやすい健康な体づくりをめざして、漢方や鍼灸、健康食品などを利用したことがある人は75%と多く、こうした、治療以外での出費も多いのではと推測されます。



助成金制度の内容について、どう思う?
保険適用ではありませんが、公的な支援として平成16年度にスタートした 「特定不妊治療助成金制度」 があります。これは、国と地方自治体が折半して不妊治療費の一部を補助しようという取り組みで、当時の国の制度の概要は 「体外受精および顕微授精(特定不妊治療)の 治療費を、1年度あたり上限10万円、通算2年支給」 という内容でした。その助成金制度の内容についての感想を、実際に使用している当事者たちに聞いてみました。

「助成金制度の内容は満足ですか?」 という問いに、 「満足」 「やや満足」 と答えた人は、32人(13%)、 「不満」 が188人(77%)、その他・無回答が26人(10%)で、 「不満」 と答えた人が圧倒的に多いことがわかります。

不満と答えた人のコメントを、ごく一部ですがご紹介します。
・治療内容・指定病院などの制限があり、助成金の金額も、経済的負担を考えるともっと高い方がありがたい。
・治療にお金がかかるので仕事が辞められないでいるのに、年収が夫婦二人合わせると対象金額を上回ってしまうので、助成がうけられない。
・地域差が不公平。デリケートな治療内容に対してプライバシー問題への配慮の薄さなど、とても使いにくい制度。



この 「特定不妊治療助成金制度」 については、Fineは別途、主婦の友社の雑誌 『赤ちゃんが欲しい』 と共同調査を行なったのですが、その結果でも、 「対象となる世帯の年収に制限がある」 「地域によって助成内容に差がある」 などで、使い勝手はいまひとつという意見が多数出ていました。(詳細は 『赤ちゃんが欲しい』 24号をご参照ください)

確かに、夫婦合算の所得ベースが650万円未満であること、事実婚の夫婦には支給されないこと、事業実施主体において指定された医療機関での治療であること、など、条件は厳しいものでした。アンケートにもそれらについての不満が数多く寄せられました。しかし、こうした調査の結果が反映されて(!?)、めでたく18年度からは支給期間が2年から5年に延長され、さらに19年度から助成金額の上限も10万円から1年度あたり1回10万円を2回まで(合計20万円)に、年収も650万円ではなく730万円に引き上げられました。これは患者にとってありがたいニュースといえると思います。

けれども、やはりそれでも「助成金ではなく保険を適用して欲しい」という声は、患者やその周囲から消え去ることはありません。

「不妊治療に保険をきかせて!」 という声は9割
「不妊治療に保険を適用させてほしいと思う?」 という問いには、90%の人が 「思う」 と答えました。これだけ高額な治療であり、しかもその治療の成果(妊娠・出産)が保証されているわけではないことを考えると、今後の(最終的な)経済的負担がどれだけ大きくなるのか見当がつきませんから、保険適用を望む声が多いのはもっともだといえるでしょう。私自身も治療中、高額な治療費に悲鳴を上げ 「なぜ保険がきかないんだろう?」 と、納得がいかなかった一人です。実に9割の人が 「保険を適用して欲しい」 と願うのもうなずけます。



保険はきかせてほしい。ただし・・・
けれども自由記述のコメントを見ていると、意外なことに、保険を適用して欲しいといっても、必ずしも 「全面的な適用」 を望む人ばかりではないということがわかってきました。

「保険適用を望む」 と答えた人のコメントには、よく読むと 「全面適用ではなく、条件付で」 という意見も多数ありました。その中からいくつかをご紹介します。
? IVF(体外受精)が絶対に必要な人だけ(卵管閉塞等)の保険適用でいいのではないかと思う。誰も彼もとなると、自然妊娠が可能な人まで、1年ぐらいで焦って治療を始めるのではないかと思う。
?混合診療の問題があると思うが、注射代や薬代、エコー代などは保険でカバーされるといいと思う。
?子宮内膜症や卵管水腫などは病気だと思うので。
?薬代と検査代は保険をきかせていいのではないでしょうか。
?保険適用による横並び診療を原因とするデメリットが生じる恐れが払拭できないが、タイミング法までは保険適用してもよいと思う。

保険をきかせると、こんな心配もあるかも・・・
また、保険適用に 「反対」 という人からは、このような意見があがっていました。
・保険適用になったら患者に対してすべてがいい方向に向かっていくのだろうか?という不安感がある。
・現在治療をしている人たちにとっては助かるけど、治療をしたくない人(自然妊娠を望む人など)もいるし、保険が適用されることによって、自然妊娠が可能な人まで病院通いをしてしまったり、授からなければ治療をするのが当たり前みたいな風潮になってしまうのもよくないかもしれない。
・保険適用にしてしまった場合、技術力(質)の低下が心配です。
・金額がそれなりに高い施設は、すべてにおいて勉強しているし技術も高い、人の教育もしっかりしています。そんな施設と 「不妊治療は儲かるから・・・」 と始めたような施設が同じ保険の適用にはなって欲しくない。適用するならある程度の基準を満たしている施設にして欲しい。
・適用して欲しいとは思うが、治療=妊娠(できる)と思われるのが怖い。病気で、病院に通いその病気を治すという考え方で捉えられると、病院に行けばいいのに行っているのになぜできないの? と言われることがあると思うので(実際に自分が通院しているときに、通院を知っている人にそういわれた経験があり、気分が重たくなったことがあったので)。

なるほど。そう言われてみればそうかもね〜、と考えさせられる意見ばかりでした。
特に最後の意見はすごくナットク! 「治療さえすればすぐに妊娠できるんでしょう」 と言われてしまうと、そうでない(何度体外受精を行なっても妊娠できない)患者(私のような・苦笑)としては、とてもつらくて、身のおきどころがない気持ちになります。ううむ、確かにこれは落ち込むかも。もしも適用されることになったら、そのあたりの認識の周知徹底も重要だと思いました。やはり 「不妊治療の啓発」 がここでも大切になってくるのです。

お金が続かなくて治療がをやめる人がいっぱい
自由記述式のコメントで、一番多かったのが、「少子化政策というのなら、産みたい人たちを助けてくれる政策も作ってほしい!」 という声です。声というよりもむしろそれらは、ほとんど叫びに近い、切実な思いでした。
「お金がないからこれ以上治療を続けられない」、 「次の治療の費用がたまるまで、治療を休憩しています」 などという声が、それはそれは、数え切れないほどたくさんありました。
「経済的理由により治療を中断した、もしくは、中断したいと思ったことがありますか?」 という問いには、「ある」 「多少ある」 「実際にそれで中断した」 が、合計で148人(約60%)、「ない」 が87人(約35%)でした。



治療を続けるためにはお金が必要であり、お金がないことによって子どもを諦めなくてはならないという人が大勢います。確かに 「今は人工授精ですが、体外受精となるとお金がかかるので、治療を受けられません」 という意見も多数見られました。これは一つの悲劇であると思います。女性の年齢が若い方が体外受精の成功率も高いでしょうに、若いカップルでは治療費が捻出できない場合が少なくないのです。
治療の一部だけでも保険が適用され、治療を行ないたい患者の経済的負担が減ることを願わずにはいられません。

署名活動を全国展開し、国会請願します!
そこでFineでは、保険適用に関する署名活動を行なうことにしました!
衆参両議院のすべての代議員に協力要請を行ない、協力してくれる議員さんを通じて、集まった署名を持って、定期的に国会請願を行なう予定です。
今回の署名の趣旨は 「不妊治療に使用するすべての薬と検査に対する保険適用」 です。
治療の手技そのものに対する保険適用については、当事者の中でも賛否両論あるというのは、アンケート結果でもわかったとおりであり、またスタッフ間でも意見が分かれたため、総意としては不妊治療に関わるすべての 「薬」 と 「検査」 に対しては保険を適用してもらいたい、ということにまとまりました。ゆくゆくは、保険適用範囲の拡大や、助成金額の更なる引き上げも照準に入れるつもりです。

この署名活動を、今後、全国展開していきたいと思っています。
私たち患者の力は微力かもしれません。
けれども、何もしないよりは、きっと、ずっといい。
そしていつか、私たち患者を応援してくれる人が、少しずつでも増えて、大きな力になるかもしれない。
そう信じて、コツコツとやっていければと思っています。

署名活動にご協力いただける方は、ぜひご一報を!
もしもこれをお読みになり、「私も協力したい」 「うちでも協力してもいい」 「うちのクリニックに署名用紙をおいてもいい」 という方がいらっしゃいましたら、ぜひとも! ご協力をお願いします!
署名活動への協力方法はこちら⇒ http://j-fine.jp/activity/act/shomei.html

患者をサポートしてくださる方からの力強いエールを、お待ちしています!


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