 |
|
「培養液レポート」
「治療の友!? 「培養液」に迫る 」
|
 |
Fine会報誌 2007年冬号(vol.14) より
Fineスタッフ たかぼんさん |
|
|
|
不妊治療が体外受精へと進むと、気になる「培養液」という言葉。卵子と精子が出会い、受精卵が育つシャーレに満たされた液体……その中味とは? 「培養液」についてレポートすべく、2007年11月29日(木)、埼玉県戸田市の潟Aイエスジャパンを訪ねました。対応してくださったのは営業部長の小野塚新さん、営業部ART課の村岡英俊さん。 Fineの理子、ふにぃちゃん、たかぼんが話を聞きました。
■ルイーズちゃんはハムスター用の培養液で生まれた!? 〜体外受精用培養液の歴史〜 潟Aイエスジャパンは、「JOMO」ブランドで知られる石油メーカー潟Wャパンエナジーと米国のアーバイン・サイエンティフィック社(IS社)との合弁会社として1989年に創立、細胞培養用の培地・試薬製品の総合メーカーであるIS社の製品の輸入販売元です。米国カリフォルニア州にあるIS社は1970年設立、医薬品製造用の培地やART(体外受精等の生殖補助技術)に用いられる培地・試薬製品を世界各国で販売、体外受精用培養液は世界中のクリニックで広く使われています。 「培養液(培地)」とは、細胞などを培養するために使うもので、体外受精治療では、精子と卵子を受精させる「媒精」や受精卵(胚)を育てる「培養」などに用いられています。 「1978年に、世界で初めて体外受精による赤ちゃん(英国・ルイーズちゃん)が誕生しましたが、当時は人間の体外受精専用の培養液はまだ開発されていませんでしたから、ハムスターなどの細胞を培養するための培養液を使っていたんですよ」と村岡さん。 3人とも、これにまずびっくり!
ここから人間用の体外受精培養液の開発が本格的にスタートしたとのこと。つまり、人間用の体外受精用培養液の歴史は不妊治療の歴史でもあるのです。 米国・IS社では、1985年に人間の体外受精用の培養液「HTF」の販売を開始。研究開発や治療法の進歩により、現在はさまざまな培養液を展開しています。業界全体で見ると、デンマークやスウェーデン、オーストラリアや日本など体外受精用の培養液を扱うメーカーは10社ほどあり、日本のクリニックでもさまざまな培養液が使われています。
■体外受精だけじゃなかった! 〜培養液の活躍シーン〜 不妊治療では、以下の場面で培養液が使われます。用途に応じて、使う培養液の種類が違うとのこと。たくさん種類があったんですね。
1.精子の洗浄・調製 精液検査や人工授精、体外受精の時に採取する精液。その中には白血球や下着の繊維などが含まれるため、培養液やアイソレート液を加えてこれらを取り除き、遠心分離器にかけます。その後、スイムアップ法で元気な精子を選別する際にも培養液を使用します。
2.卵子の前培養と媒精、胚培養 卵子や精子、胚(受精卵)の処理、そして胚の培養の時に使います。最近では、採卵から3日目まで培養した胚(前核期胚〜分割期胚)と、それ以降の胚盤胞までの培養には、別の培養液を使うようになりました。それぞれに適した培養液が開発されたことで、胚盤胞移植という新しい治療技術が誕生したのです。また、胚の生存率を上げるために、たんぱく質として血清を10%ほど混ぜることもあります。これは、いわば胚用のサプリメントといえ、最初から添加された製品もあります。
3.胚移植 胚を子宮に戻す際にも培養液が必要です。少量の培養液とともに胚はカテーテルを使って子宮に注入(移植)されます。
4.胚の凍結・融解 胚の凍結・融解には、その前後にそれぞれいくつかの培養液を使う作業があります。作業ステップごとに必要な培養液がセットされた製品を用います。また、3日目まで培養した胚と胚盤胞、それぞれに適した培養液があります。
5.精子の凍結 精子は液体窒素タンクで凍結保存しますが、その前にいくつかの作業があり、作業段階に応じて培養液が使用されます。
■大事な受精卵が育つ培養液、その成分は? 体外受精で使われる培養液はどのような成分で構成されているのでしょうか? 企業秘密かと思いきや、IS社の培養液は組成表をホームページでも公開、誰でも内容を知ることができます。 「組成表の公開は、他社にはない特徴といえます。培養液の組成に関しては、IS社並びに当社の品質方針として、必要最小限の組成であることを掲げています。実績のある安定した性能で、体内に存在する物質に近いもので構成していく、という考え方です」(小野塚さん) 培養液の究極は「限りなく母体の環境(体液)に近いもの」なのでしょうか? 「そのための研究を行なっていますが、体液の解明にはまだまだ時間が必要です。子宮内、卵管、卵胞液など、それぞれの場所によって体液の組成は違うでしょうし、ホルモンなど体内の情報のやりとりによっても変化しているかもしれません。また、卵管液は採取できる量が少ないため組成を分析するのがむずかしいのです」(小野塚さん) 日本だけでもたくさんのカップルが治療しているのに、まだまだ女性の体、そして妊娠のメカニズムは神秘に包まれているのですね!
体液に近いものとはいえ、精子や卵子に雑菌が含まれていることもあるので、培養液には抗生物質なども含まれています。また、血液製剤に由来する血清に関しては、IS社の場合は原料となる血液は米国・FDA(米国食品医薬品局)認可施設で採血し、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が陰性であると確認したものを使用。さらに日本においても、この3種のウイルスの遺伝子検査(核酸増幅試験)を追加で行なっています。 ところで、胚培養用の培養液は薄いピンク色。その理由は? 「pH(ペーハー)指示薬の色です。培養液は中性ですが、培養中の環境変化などで、万一アルカリ性や酸性に偏った場合には液の色が変化するようにしているのです。これは胚培養士さんにもわかりやすいと好評です」(村岡さん)
■米国から日本、そして全国のクリニックへ
〜製造・輸送・保管〜 米国・ロサンゼルス近くの製造工場では、ボールミル粉砕機という機械で培地の粉末を製造します。これをWFI(Water for
Injection・注射用蒸留水)という品質管理された水で溶かし、塵がほぼない状態のクリーンルーム内で濾過 (フィルター)滅菌してボトルに充填。製造ロットごとに検査を行ない、ロットによる差が出ないように品質を管理します。
こうして作られた製品は、ロサンゼルス空港に陸送され倉庫で冷蔵保管されます。保冷剤とともに空輸され、日本に着くと成田空港の倉庫で冷蔵保管。そして、保冷車によりアイエスジャパン社の冷蔵倉庫に運ばれます。日本全国のクリニックへの配送も、もちろん冷蔵で運送。そのために容器や保冷剤にも工夫を凝らしているといいます。 「米国の工場からクリニックまで、外気温の変化に左右されることなく一定の温度を保つように管理しています。空輸は2週間ごとで、万一品切れになってはいけませんから在庫管理には気を配りますね。国内輸送には、表面をアルミ箔コーティングした再生紙利用のダンボールを専用に開発し、植物性の断熱材やクッション剤を使うなど、環境にも配慮しています」(小野塚さん)
■クリニックでの管理は? 患者にとっては、クリニックでの管理も気になります。また、医師や胚培養士は、どういう基準で培養液を選んでいるのでしょうか? 以前は、医師自らが培養液を調合していたという話も耳にしましたが……。 「私もさまざまな施設を訪ねますが、もしも管理に問題があると治療成績に影響しますから、どのクリニックでも管理はしっかりしていますよ。培養液の種類が充実していなかった頃には、医師が培養液を調合することもあったようですが、現在は胚培養士が担当しているのがほとんどです。とはいえ、熱心な医師は胚培養士に任せきりにするのではなく、積極的にかかわっている様子がうかがえますね。一人の患者さんで複数の卵子が採卵できれば、異なる培養液で培養して比較するなど、クリニックも妊娠率を上げるためにいろいろ工夫しているようです。ある条件の患者さんにこの培養液がいい、という有意差は今のところ発表されていませんが、今後も研究が続くと思います」(村岡さん)
数年前までの体外受精では、1回に10個以上の卵子を採卵するような「たくさん卵を育てる」治療が主流でしたが、近年は、「少ない数の卵子を大事に育てる」方向に変化していると、村岡さんは言います。これは治療をしていて実感する人も多いことでしょう。複数個の胚を移植すれば多胎妊娠のリスクがありまた長期培養する胚盤胞移植は着床率が高いので、1個移植という場合も多いようです。さらに胚凍結技術も進歩しているでしょう。 新しい治療法、また体への負担が少ない治療法は、それを可能にする技術発展があってこそ、ともいえるようです。
■治療について知ることで、患者の意識向上を アイエスジャパン社ではIS社の培養液のほか、人工授精や胚移植用のカテーテル、顕微授精用の針など不妊治療関連製品も扱っています。今回はそれらのサンプルも用意していただき、説明を聞くことができました。カテーテルを触り「細い」「やわらかい」「こうなっていたのか!」、顕微授精の針に「ガラス製?」「先が見えないほど細い」「これで卵子に精子を送り込むのか!」と好奇心丸出しの3人でした。 今回の取材は、昨年9月にパシフィコ横浜で開催された第10回日本IVF学会に、Fineがブースを出展したことがきっかけでした。隣のブースがアイエスジャパン社で、素人の私たちの質問に担当者が親切に答えてくださったのです(※この学会の参加者は基本的に医療関係者で、素人は多分Fineメンバーだけ)。展示された培養液や不妊治療関連器具……患者にはおなじみのはずなのに、これらについて「全然知らない」ということに私たちは気づいたのです。 患者が培養液を選ぶことは基本的にはできませんが、治療のどのシーンでどのように使われているかを知ることは、積極的に治療にかかわる意識向上につながると考え、今回取り上げました。 ご協力いただいた潟Aイエスジャパンの方々に心から感謝いたします。
潟Aイエスジャパン http://www.isjpn.co.jp/index.htm
<感想> 会報誌のネタをいつもキョロキョロと探している私。そんな私の目に飛んできたのが「培養液」。学会会場で潟Aイエスジャパンさんのお話を聞き、ピンときちゃったのです。培養液に関する噂はたくさん聞くんだけど、実は見たこともなく、どんなものかわからない。きっとみんなも同じに違いない!
と。
今回、培養液がどのように作られ、管理され運ばれているのか、またその徹底ぶりに驚きました。お話はちょっと(かなり)むずかしかったのですが、今までベールに包まれていたことがわかりスッキリ!(理子)
「今日の卵はA培養液で!」「今回はサプリメントとして△△を入れてね!」な〜んて注文できるわけでなく、エンドユーザーといえども患者にはまったく選択権のない培養液。「Phenol
Red(pH確認のための色素)は?」「抗生物質は?」という私のつっこみにもきちんと説明をいただき、安全に使用できる製品であることを実感! 妊娠初期の薬物使用も気になるけど、妊娠の前段階の胚だって尊い生命の始まり、やっぱり影響が気になりますからね!(ふにぃちゃん@臨床検査技師)
胚や精子の凍結に作業工程があることを知り、培養士さんの仕事を想像しながら治療費が別料金なのに納得。メーカーや販売会社、クリニックなど多くの人の活動、そして思いにより不妊治療が成立していることをあらためて実感。治療中の人は、そんなことにも思いを馳せてみてはどうでしょう。それにしてもルイーズちゃん、ハムスター培養液でも妊娠したとは生命の神秘!!(たかぼん)
|
HOME
|
|
Copyright (C) 2010 NPO法人Fine. |