今まさに不妊という状況に向き合っておられる皆さんにどのようなお話ができるか、とても悩みました。私のような心理カウンセラーは残念ながら、生殖医療の中では直接的に妊娠に貢献することはできません。それゆえか、多くの不妊患者さんにとっては「妊娠に関係ない」から利用してもしょうがないものと感じられるかもしれません。事実、心理カウンセリングを利用される患者さんは多くありません。でも私だけでなく、この領域で働く心理カウンセラーは皆、そのことを残念に思っています。ですから、今日は、ぜひ私たち心理カウンセラーにできることは何なのかをお話しできればと思います。
不妊という経験そして不妊治療を受けることは、大切な人との関係を変えてしまうことがあります。それまで信頼していた人から傷つけられてしまうこと、理解してくれていると思っていたのに裏切られるような振る舞いを受けてしまうこと…皆さんも少なからず経験されたかもしれません。もちろんその反対に、これまでそれほど親しくなかった人からの温かい配慮に驚いたり、不妊という経験によって初めて出会った人との新しい友情、そして不妊経験を通じても変わらない態度でより深い信頼を結ばれる関係ということもあるかもしれません。
このような変化、特に望まない変化を経験するとき、私たちは悩み苦しみます。私が変わってしまったのかと自分を責め、相手が変わってしまったのかとその人を責めたくなったり。生まれてくる子どもとの絆を作りたいと願うがゆえの不妊治療で、これまで大切にしてきた人との絆が壊れてしまうとしたら、とても残念なことでしょう。しかもそれが夫婦というとても大切な人との絆であるとしたら、残念なだけではすみません。子どもは授かったけれど夫婦の関係は冷え切っている、そんなことは避けたいものです。
このような悩みに、私たち心理カウンセラーがお手伝いできるかもしれません。なぜなら私たちは、「関係性」を扱うことの専門家であるからです。自分が悪い、相手が悪い、だけでなく、自分と相手の「関係」に注目して、その関係を見つめなおし、修復したり、あるいは自分にとっての意味付けを変えることで、あなたにとって大切な人との絆を結びなおすことができるのです。
また、不妊のつらさには、いのちの連続性を自分がとぎれさせてしまうように感じられるこも含まれます。私たちは先祖から有形無形多くのものを受け継ぎ、それを次の世代に伝えていくこと、それを使命のように感じているからです。けれども、あなたが今、生きていることそのものが実は大切なのです。子どもを産み育てることの有無にかかわらず、いのちの流れは決して止まることはなく、次の世代のいのちに引き継がれつながっているのだということを理解していただきたいと思っています。
「子どもを望んでいるのに授からない」今のつらさそのものは、子どもが得られなければ解決しないように感じるでしょう。でも、その「つらさを抱えているあなた」や「あなたと周囲の人との関係性」は変化が可能だと信じています。今日の私の話の中に、何か少しでもそのきっかけになるようなことを感じていただけると嬉しく思います。
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