千葉県船橋市女性センター

「不妊の悩みに寄り添う講座」レポート
Fine会報誌 2005年夏号(vol.4) より


今日ちゃん

2004年12月初旬、Fineに、1本のメールをいただきました。
「突然のメールで失礼いたします」から始まるメールの文意は、来年3月に実施予定の講座での講師依頼でした。千葉県船橋市女性センターでは、平成12年から毎年、不妊をテーマとした催しを開いているのだそうです。メールのていねいな文章から、担当者の熱心さがとてもよく伝わってきて、喜んで承諾しました。
講座は3週連続、土曜日の午後2時間にわたり行なわれます。1回目の講座は、臨床心理士で東京HARTクリニックのカウンセラー、平山史朗先生を予定しているとのこと。Fineは2回目と3回目の担当です。平山先生は、Fineのカウンセリングスーパーバイザーであり、今年開講したFineピア・カウンセラー養成講座のメイン講師でもあります。1回目に平山先生のお話を聞いた方たちが、次にFineの講座に参加してくれるのだと思うと、プレッシャーは大きいですが、その分、ますますやる気も出てきました。
講座の担当者は不妊当事者の気持ちへの配慮が高く、講座のタイトルひとつにしてもあれこれ考慮し、私に相談までしてくれました。同センターでは「子どもを産んでも産まなくても産めなくても差別されない平等な社会を目指して」という主旨で、広く市民にメッセージを発信し続けているのだそうです。このような機関がもっともっと全国規模で増えてくれたら本当にいいのにな、と思います。
ほどなく講座のテーマが次のように決まりました。

全体のタイトルは「不妊の悩みに寄り添う講座 2005/03」。

1回目「『不妊』とうまく付き合う」(平山史朗先生)
2回目「私の不妊体験とFineの活動」(Fine代表 松本亜樹子)
3回目「みんなで話しましょう」(Fine代表とスタッフ)


あとは開催日を待つのみです! わくわくしながらその日を待っていました。

というのは真っ赤なうそで、実は私は日が近づくにつれ、ちょっとあせってきていました。それはなぜかって? とっても緊張してきたのです!

Fineの活動が始まってからというもの(いや正確には準備段階からすでに)、幸か不幸かあちこちでお話しさせていただく機会を得、初めての時こそ今にも走って逃げたいと真剣に悩んでいたものの、回を重ねるごとにちょっと慣れてきたかな? なーんて思っていたのですが…。
よくよく考えてみたら、私は「同じ“当事者”を対象とした講演をしたことがなかった」のです。これまでの講演の参加者は、当事者の“周囲の人たち”。だから私は当事者の声としていろんなことを話すことができたのでした。当事者の思い、私や仲間たちの思いを、あちこちで一生懸命に伝えてきました。わかってほしくて必死になっていたから、緊張するゆとりもなかったのかもしれません。とにかく少しでも当事者の気持ちを理解してもらいたいとだけを願って、要望があれば都合がつく限り、お話ししてきました。
んがっしかし、今回は聞いてくれる人たちがまさにその「当事者」なんですよね。そのことにハタと気がついて、ちょっとあせったわけなのです。
(まてよ、私、何を話したらいい? 「当事者の気持ち」…そんなのは誰よりも参加者のみんながよくわかっていることじゃない! うーむ、難しいかも。どうしたらいいのかなぁ。みんなは何を聞きたいのかなぁ。どうしたら少しでもみんなの役に立つのかなぁ。そもそも私の話なんて聞きたいのだろうか?)…そんなことを、実は当日まで悩みつつ、会場へと向かったのでした。

3月12日(土)講座当日。参加者は約20名。いろんな思いを抱えて来てくれた仲間たちです。みんなの顔を見ると、わざわざこうして集まってくれたことに対する感謝の思いがこみ上げてきます。私は自分の体験やその時々の気持ち、それを踏まえて、今Fineとして行なっていることなどを一生懸命話しました。担当者との事前打ち合わせで、一人で話すのには2時間は長すぎるし、かといって質疑応答といっても、ドクターやカウンセラーではない私に質問など出ないだろうから、「もし早く終わったら、座談会にしますか?」ということになりました。そして、ひととおり話し終わった後、意外なことに、ぽろぽろと質問をいただきました。いえ、それは私への質問というよりも、むしろ、質問という形をとりながらも、「これまで抱えてきたいろんな思いを、少しずつ吐き出している」ような感じでした。本当は私に話したいんじゃない。誰かに、そのときその場で、言いたかった、伝えかったことではないかな、と思える言葉がたくさんありました。
―――胸が熱くなりました。みんなの思いを痛いほど、本当に痛いほど感じ取ることができたからです。みんな、話したかったんだよね。だったら、もっともっと自由に話してほしい。話せる所で。ここがそうなら、何でも話せる場にしたい。そう決心しました。そして、3回目の講座を迎えたのです。


はるみさん

当日の顔合わせの際、主催者にうかがったところでは、今回の講座は継続受講される方が多く、受講生の熱意や想いを強く感じるとのこと。「きっと、お話ししたいこともたくさんあるだろうな、どういう形でお話に参加したらいいかな?」と、3回目のみの参加である私は、場の雰囲気がわからず、少し緊張していました。

■会場の様子
この「話し合い」の参加者の内訳は、受講生(市民)として参加された方が20名くらい、Fineスタッフ&サポートメンバー6名でした。会場は、やや広めの会議室。お花が飾られています。お茶など、飲み物も用意されていました。女性センターらしい配慮がうれしいなと思いました。
Fineでは、Fine Bloom(ファイン・ブルーム)というグループシェアリング (体験者の分かち合いの会)の開催に向けて、昨年より準備を進めています。今回は、講座の受講生を対象としている点で、Fine Bloomとは意味合いが違うものの、「体験者が、気持ちを語り合う」という部分では、かなり近いものになるかもしれないと、私は想像していました。
会場で私たちは3つのテーブルをつくりました。「治療について」「フリー」「不妊とカウンセリングについて」のテーマを用意し、各自が話したい場へ移動、じっくり話していただくという設定です。途中休憩が入るので、その際にグループの移動が可能であることは、はじめにお伝えしました。じっくり話したい場合は、そこに残っていいし、たくさんの人と話したい場合には、どんどん移動してもらいたかったからです。
今日ちゃんより、グループ分け・時間のこと・自己紹介のやり方などのはじめの話があり、まずは全員が簡単な自己紹介をしました。そして、各自希望のグループに分かれました。

■話し合いが始まると・・・
前回の講義の後半で「座談会」を少し経験されたとのことでしたが、新しく私たち(Fineメンバー)が入ったことで、はじめは皆さん少し緊張されていたように感じました。しかし、自分が関心のあるグループに分かれるとその緊張もずいぶんほぐれたようです。

私が参加したのは、「不妊とカウンセリングについて」をテーマにしたグループ。途中入れ替わりがありましたが、人数は7人くらいでした。「心に関すること」や「カウンセリング」をテーマにして、一人ひとりがゆっくりと話しました。テーブルごとの人数では、「治療」のテーマに多く集まったようで、机を取り払っていすを持ち寄り、熱心にお話しされていたようです。私たちのテーブルからは一番遠かったのですが、その熱気は十分伝わってきました。また、フリーのグループは少人数ながら、多様なお話がなされていた様子でした。
この文章を読まれた方たちは、具体的にどんな内容だったか知りたく思われるかもしれませんが、それらについて、ここでご報告することができません。当事者の分かち合い(話し合い)では、参加者が安心して話すために、その場で話したこと・聞いたことは、そこに置いていく(「言いっぱなし・聞きっぱなし」とも言う)ルールを設けることがあります。今回も、そのお約束のもとに開催されています。
この企画のために用意された時間は約2時間半。あっという間に過ぎました。終了時刻を過ぎて、主催者から「終了予定時刻がきましたが、まだ話してもかまいません」とのアナウンスがありました。退出される方はほとんどなく、その後もお話はしばらく続きました。

■グループシェアリングについて
私は、不妊とは違うテーマでの分かち合いの会に、長く関わっています。しかし、今回のように人数の多い「不妊」のみをテーマとした話し合いは初めてでした。
参加者の皆さんはそれまでの2回の講座で学び、しっかりしたご意見をお持ちの方たちでした。「知りたい」「話したい」と思っている、そういう情熱のようなものを私は終始会場から感じていました。それはとても強いパワーでした。
皆さんの熱意ある話し合いを目の当たりにして、改めて「不妊で悩む体験者」のための、このような機会の必要性を強く感じました。
それと同時に「地域」に根ざした支援の形が、参加者に安心感を与えていることも感じました。「不妊」という問題に何年にもわたり、きちんと向かい合ってくださっている主催者の方々の熱意に頭が下がりました。このような地域では、地域に根ざした当事者の活動も、今後発展していくだろうなぁと想像しました。 

今回のような話し合いをグループシェアリングと呼ぶことがあります。このグループシェアリングは、その主催団体により、方法も目標も多様です。Fineで現在準備中のFine Bloomは、不妊体験者を対象とした「分かち合いの会」の企画です。Fineでは、参加した皆さんに楽しんでいただくことを目標として掲げています。
グループシェアリングには、メンバー固定型のものと、毎回参加者が違い、話す内容も違う自由参加型のものがあります。メンバーを固定した会でも、その時々で各人の心のあり方は違うでしょう。自由参加なら各回が一期一会です。いずれにしても同じ「会」は二度とないと言えるでしょう。
昨日まで見知らぬ人だったのに、今日、同じテーブルを囲み、心置きなくお話しできるのは、「体験」という共通のものを抱えて過ごしてきた、それまでの苦しい日々があったからこそだと、私は思っています。
分かち合いの会(グループシェアリング)に参加するようになって、「自分が抱えてきたことを、誰かに話せる」ことだけでも、私はずいぶん気持ちが楽になりました。人と出会うことのうれしさ、楽しさ、難しさ、いろんなことにふれる事ができたように感じています。
今回の、船橋での話し合いもまた、あの日参加したすべての人たちにとって、たった一度の会でした。私にとっても貴重な体験でした。
受講生の皆さんは、その後の日々をどう過ごしていらっしゃるかなぁと思うことがあります。
あの日、ご一緒してくださった参加者の皆さま、ありがとうございました。
またいつかお目にかかれたらうれしいです。