NPO法人Fine 2006年講演会レポート
Fine会報誌 2007年冬号(vol.10) より


アコさん

小春日和という言葉にぴったりの天候に恵まれた11月18日、NPO法人Fine2006
年講演会「かしこい患者になるためには」が東京ウィメンズプラザで行なわれました。私はこの日、Fineへ再入会して初めて講演会へ参加しました。どのような話が聞けるのだろうと期待に胸をふくらませ、好奇心と緊張感とが入り交じった思いで会場に入りました。
今回の講演会でお話しくださったのは、不妊治療ジャーナリストの池上文尋(いけがみ・ふみひろ)氏です。池上氏は製薬企業で不妊治療薬のプロモーションに関わり、不妊治療専門のドクターや、ある時には患者さんとの交流を通じて、正しい情報と知識の提供が望まれていることを知り、ジャーナリストとして活動されるようになったそうです。

約40名の参加者が席へ着いた定刻に、講演会は始まりました。Fineの司会者が池上氏を紹介し講演が始まるのか?と思いきや、突然池上氏からの掛け声があり会場がざわつきました。それは隣の席の人と握手をして3分間の自己紹介をすることになったからです。隣の人が知らない人だと緊張するけれど、こうして話すことによって、リラックスして参加できるというのです。みんなが一斉に話し始め、その声が会場内に響き渡りました。始まる前の緊張した空気が和やかになったところで講演が始まりました。

スクリーンに映し出された最初の話題は、池上氏が不妊情報を提供している “オールアバウト(*1)”へよく来る質問の中から、期待と結果のずれを知ることが大事というものでした。
具体的には、1)妊娠率と出産率の違い、2)本当の妊娠率、3)クリニックHPの妊娠率。これらの情報からきちんと事実を知ることが大切で、そのために気をつけたい点として、1)情報には必ず質があることを知っておく、2)情報は比較してみる、3)クチコミは裏を取る、4)高い妊娠率には注意が必要、5)webの掲示板は「事実と感情による意見」を分けて見る、6)頭でっかちでも勉強不足でもダメ、などを挙げられました。どの説明もうなずけることばかりです。
そして、講演はいよいよ本題へ。

まず初めに、「不妊専門クリニックの現状」として、都市部に増加傾向にあること、勉強しているドクターと不勉強なドクターがいること今のドクターはコミュニケーションを勉強してきていない世代が多いこと、不妊医学は不妊専門クリニックで盛んであることを挙げられました。

次に「良いクリニックの選び方」として、チーム医療をしており勉強熱心であること、患者のニーズを捉える工夫をしていること、質問に答えてくれること心のケアーをしていることを挙げられました。
さらに、「治療方法でわかる施設のコンセプト」では、ステップアップ型(段階を踏んでの治療を行なう)の施設が一番多いこと、IVF、ICSI型(体外受精と顕微授精しか行なわない方針)の施設があること、キープ型(だらだら治療をしたりAIHを何回もするなど)は産科との混合型に多いこと、代替医療型(漢方を取り入れて東洋医学による不妊治療を行なう)の施設があること、そして最後に、トータル型として各種の型をトータルで行なっている施設が増えてきていることを紹介され、クリニックを選ぶにも治療方法を調べることも大事なんだなと思いました。

「良いドクターの条件」としては、情報公開している、明朗会計である、話を聞いてくれる、治療のスケジュールが明確である、ポジティブな言葉で話してくれる、治療を慌てないなどを挙げられました。
反対に良いドクターが少ないのはなぜなのか?という話では、良いドクターには多くの患者が集まるので多忙であること、患者のニーズの多様化に合わせるのが難しいこと、ドクター自身が忙しさに問題点があるのに改善できないことを挙げられました。視点をドクター側に向けた話では、「ドクターの悩み」として、待ち時間を短くしたい、もっと妊娠率を上げたい、患者さんの不安を解消したい、治療のクオリティを上げたい、これらは患者側の希望でもありますね。

ではどのようなクリニックが良いのか?という私たちが最も聞きたい問いに対しては、高い技術を持っていて実績のあるドクターが、開業して間もないクリニックを選ぶのがねらい目とのことでした。開業して間もないと、患者さんもまだそんなに多くはないので、時間をかけて診てくれるというのが理由です。


そして「ドクターとのコミュニケーションをうまく取る方法」として特に重要だと池上氏が力説していたことは、
1)不妊治療の基礎的な本は必ず一冊は読んでおくこと。
2)聞きたいことは前もってメモなどに書いておくこと。
3)わからないことは頭の中で整理してから質問すること。
4)ドクター以外で丁寧に教えてくれるスタッフを見つけること。
5)自分なりに自分の身体の状態や治療の状況をファイル化しておくこと。(不妊治療ノートなど作っておく)
どれもその通りだと痛感することばかりです。
それがなかなかできないもどかしさも、また感じました。

池上氏はメールマガジンを発行されていらっしゃいますが、読者には妊娠しやすい読者と妊娠しにくい読者がいるとのことでした。妊娠しやすい読者とは、不妊治療を人生の糧だと思って前向きに捉えている人、健康な身体作りに力を入れている人、夫とのコミュニケーションが上手な人、ドクターやスタッフの心をつかんでいる人、ネガティブを防止する方法をたくさん知っている人(気分転換が上手)、不妊治療仲間を作って良いコミュニケーションをしている人だそうです。逆に、妊娠しにくい読者とは、攻撃的な人、ネガティブな性格な人、夫や姑のせいにする人、うらやましいとか嫉妬の気持ちが強い人、自分の殻に閉じこもる人(これは生活の中でのストレスが強いことを意味するとして挙げられました)なのだそうです。
妊娠しやすいタイミングについては、夫婦の記念日、一旦治療を止めて半年以内、春〜初夏にかけて、お祭りなどのイベントの頃、旅行などを挙げられました。治療も大切ですが、人間の身体と心は連動しているとてもデリケートなものなのだということを感じました。
そして患者の不安を少しでも解消するための患者本人の心構えとしては、解消できる悩みと解消できないものがあると分けて考えるべきとのこと、また子どもについて考えてみることも大事であること、本当に欲しいのか? 夫婦で話し合っているのか? 最終的に子どもができなかったときどうするのか?というように、いろいろなケースを考えることが大事だとのことでした。治療中で不安の多い時、自分にもう一度問い直してみることも不安解消の道なのだなと思いました。

今後の治療スタイルは、一度の採卵で凍結し、1個ずつ戻す方法になるだろうとのこと。薬の副作用については、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)、多胎妊娠(双子以上)、不定愁訴、ホルモンバランスが崩れることなどを挙げられ、治療のデメリットを知っておく必要があるとのことでした。子どもを作ろうと思って治療したにもかかわらずできにくい身体になることがあること、婦人科のドクターは婦人科のことしか診ないので、不妊の原因が婦人科以外にある場合もあることを患者側が知ることも大事であるとのことでした。

最後にまとめとして、身体と精神の健康が妊娠への近道であること、良い医療チームでサポートしてくれ、情報公開しているところを探すこと、妊娠にこだわると妊娠が遠ざかる場合があるということ、ゴール(出産)の先には育児が待っていることなど挙げられ、最後に「子どもは神様からの授かりものです」の言葉で講演会を締めくくりました。

休憩をはさんでシンポジウム(質疑応答)へと移りました。
参加した方々からの質問を池上氏、Fineピアカウンセラー・ややこさん、Fine代表・今日ちゃんがそれぞれの立場で回答しました。以下は質疑応答の一部です。


【質問】
現在、治療を休んでいます。自宅から近いクリニックなのですが待合室へのパートナー入室禁止など、スタッフにも不満があります。継続して通える条件というのはあるのでしょうか?


【回答】
来場者: ドクターが話を聞いてくれてスケジュールを立ててくれるのが良い施設だと思います。

池上氏: 現在不妊治療施設は全国に約600施設あります。その中でちゃんとした施設は100くらいです。最初は様子をみて、合わないと思ったり、治療が進んだら移ってもいいのではないかと思います。

ややこさん: 転院しても良いのではないかと思います。データをもらって相性の良い病院を見つけてください。


【質問】
有名な病院へ行ったが、忙しそうで3分も診てもらえないことが多い。質問しようと思い考えて行っても、言えないで帰って来てしまう。どうしたらよいでしょうか?


【回答】
池上氏: 治療をしている人は真面目な人が多いですね。ユーモアを交えて聞いてもらえるようにしてはどうでしょうか。例えば、はちまきに「先生、聞いてください!」と書いて頭に巻くとかですね。(会場爆笑)

ややこさん: 自分の経験ですが、あまりにも忙しそうなドクターだったので、手のひらにマジックで質問を書いて行ったことがあります。(手の平を見せて説明し会場に穏やかな雰囲気が漂う)

今日ちゃん: ちょっとはちまきでは大げさだったら、ピンクのハート型の紙に「先生聞いてください」と聞きたいことを書いてドクターへ渡すのはどうでしょうか。(なるほど〜〜と、やさしい雰囲気になりました)


【質問】
薬が合いません。次々に違う薬が出て困ります。


【回答】
ややこさん: セカンドオピニオンも必要ですね。自分が納得のいく治療を受けることが大事です。


【質問】
誘発剤をあまり使わず、1個ずつ卵子を作って毎月採卵するのと、注射で多くの卵子を作って一度に採卵するのと、どちらが身体に負担になりますか?


【回答】
池上氏: どちらも身体に傷をつけるし、どちらも女性の身体に無理をさせて採卵することには変わりないと思います。自分が納得の行く治療方針を持ったドクターに会うのが大事だと思います。


【質問】 妊娠率と出産率とは?

【回答】
池上氏: 体外受精の妊娠率は「胎嚢」で確認します。妊娠反応が出て妊娠とする施設があるが正しいとは言えないし、その後妊娠が継続しなくても、妊娠率アップのために公表している施設もあるので注意が必要です。


回答してくださった池上氏、ややこさん、今日ちゃんへ、感謝の気持ちがあふれてきました。約2時間30分の講演とシンポジウムを終え、池上氏と参加者の充実した雰囲気を感じました。

この後は場所を移しての懇親会でした。12名のFine会員と他団体からの参加者1名の計13名が参加しました。私は今回初めての講演会と懇親会への参加でちょっと緊張していましたが、Fineピアカウンセラーのお二人との会話を通じてすっかりなごやかな雰囲気になりました。各自注文した飲み物で乾杯した後は次々に出るご馳走をぱくつきながら楽しい時間を過ごしました。
不妊治療という経験をして辿り着いたFineの皆さんとの出会いは、私にとってかけがえのないものになりました。皆さんありがとうございます。最後になりましたが、講演会でお話しくださった池上氏へは感謝の気持ちと益々のご発展を心よりお祈りいたします。

(*1)オールアバウト http://allabout.co.jp/
池上氏が在籍している約400ものテーマにおいて、情報を発信する総合情報サイト
オールアバウト「不妊治療」http://allabout.co.jp/children/sterility/