私たちの声を国に届けよう! 国会請願に向けての取り組み
Fine会報誌 2007年秋号(vol.13 特集) より

たかぼんさん

■保険適用を望む声を国会に届けよう
人工授精や体外受精・顕微授精、そしてそれにまつわる検査や注射など……不妊治療では、健康保険が適用されない自費による診療が数多くあります。体外受精・顕微授精などの高度生殖医療(ART)では1周期の治療費が数10万円となり、費用捻出に頭を悩ませる人も多いことでしょう。
2005年5月にFineが実施した「不妊治療環境向上アンケート」でも、約9割の人が保険適用を望んでいました(回答者246人、ほぼ全員が不妊治療経験者)。
「私自身も治療中、高額な治療費に悲鳴をあげ、なぜ保険がきかないの?と、納得がいかなかった一人です。不妊治療は高額な治療であり、しかもその治療の成果、つまり妊娠・出産が保証されているわけではないことを考えると、最終的な経済的負担はどれほどになるか見当がつかない、という不安もありますよね。保険適用を望む声が多いのはもっともです」と今日ちゃん。
高額な治療費の捻出、経済的な事情による治療の中断や断念……アンケートの自由コメントには、多くの人が切実な現状を書き込んでいました。
そして、このアンケートでは、「保険適用に賛成」とはいえ全面的な適用を望む人ばかりではないことがわかってきたのです。
条件付きでの保険適用を望む声には、「卵管閉塞等、体外受精が絶対に必要な人だけ」「子宮内膜症や卵管水腫などの病気による不妊治療に関しては」「注射代や薬代、エコー代、検査代などは適用して」などがありました。
また、反対や不安の声には「保険適用による横並び診療によってデメリットが生じる恐れがあるのでは」「保険適用になった場合、施設による技術力(質)の低下(違い)、基準が心配」「治療を希望しない人へのプレッシャーになったり、自然妊娠が可能な人まで病院通いをするのでは」「“授からなければ治療をするのが当たり前”という風潮になることへの心配」などがありました。そして「少子化政策というのなら産みたい人たちを助ける政策を!」の声も。これらは、まさに当事者ならではの感想といえそうです。

こうした声を踏まえながら、Fineでは保険適用に関する署名活動に着手。
「治療そのものに対する保険適用についてはスタッフ間でも意見が分かれました。総意としては『不妊治療に関わるすべての“薬”と“検査”に対しては保険適用を望む』にまとまりました」(今日ちゃん)。
平成18年12月3日より、インターネットでの署名をスタート。それと同時に国会請願を見据えた活動も進めていくことにしたのです。

■国会請願って? 議員の協力が必要なの?
この署名活動の担当になったのが、スタッフのきんたろうさん。ご主人の転勤で、昨年末に中国地方から千葉県に引っ越し、それをきっかけにサポートメンバー(サポメン)からスタッフになりました。
「最初に話を聞いたときは、“Fineが取り組むさまざまな案件のひとつ”と、軽く捉えていたんです。以前から不妊のサイトなどでは保険適用を望む書き込みが多くあったし、患者の立場から保険適用の運動をしている人もいたものの実現には至っていませんから、ついにFineが動き出すときが来たんだ〜、まあ当然だよね、という感じで。それまで遠方でサポメンをしていて、Fineのお手伝いがあまりできなかったこともあり、“たいへんだけど署名の担当をしてみない?”と周りからしきりに声をかけられて、ついその気になってしまいました。でも、ちゃんとできるのか全く想像がつかず、不安なまま引き受けてしまった、というのが本当のところ(笑)。署名といえば、街頭で“お願いしま〜す”と声をかけられたり、職場で回覧されてきたり、個人的にお願いされた経験しかありません。まさか自分が人に呼びかける立場になるとは……。請願には国会議員の協力が必要ということも、今回のことで初めて知りました。そんな私ですから“患者を代表して頑張ります!”という意識は、まるでなかったんです」(きんたろうさん)。

「請願」とは、国民が国政に対する要望や苦情等を直接国会に述べることのできる、憲法に定められた制度です。参議院と衆議院はそれぞれ独立した機関なので請願は別個に行ない、請願書の提出には議員の紹介が必要です。提出した請願が受理されると請願文書表が作成されて各議員に配付され、その趣旨により常任委員会か特別委員会に付託されます。そこで請願について採択すべきか否か審査を行ない、採択すべき請願については内閣に送付するのが適当か否かが決定されます。そして本会議に諮(はか)った請願は、採択または不採択が決定されることになります。

このように、なんとも長い(?)道程が待っているのです。「大事なことだから、これを国会で取りあげてください!」という要望を出すためには、ルールに則って進める必要があるわけです。

「署名活動? 国会請願のやり方?」という状態から作業をスタートしたきんたろうさん。署名を集めることと国会議員への協力依頼、これを同時に進めていくことにしました。
「これまでクリニックの立場で、不妊治療の保険適用について国会請願に向けた署名活動を行なってきたセント・ルカ産婦人科(大分県)の担当の方にいろいろお聞きし、教えていただきました。また以前、不妊治療の現状把握ということでFineがヒアリングを受けた公明党・高木美智代議員の秘書さんにも、署名用紙などの情報をいただきました」(きんたろうさん)。
快く協力してくれる人々がいることは、Fineのこれまでの活動によって生まれた財産といえそうです。

■全国のクリニック、そして国会議員に協力を依頼
署名活動は個人はもちろんのこと、全国の不妊クリニックに協力を呼びかけるという大胆な(?)作戦を展開することに。というのも、保険適用は実際に治療中の人にとって興味・関心が高く、影響も大きいと考えたからです。
日本産科婦人科学会に登録されている全国のART実施施設は、約650カ所。6月には、入手したリストを調べ直して名簿を整える作業を始めました。これと並行して、国会議員への協力依頼のための書類も準備。衆議院と参議院、それぞれ別の用紙を用意し、何度も読み返して印刷へと進みます。折しも参議院議員選挙(7月29日)が重なり、名簿作りは最後まで修正が発生しました。
こうした作業はとても一人ではできません。そこで、Fineのサポートメンバー向けのメーリングリスト(ML:一斉に送受信できるグループメール)で、作業を手伝ってくれるメンバーを募集しました。
「まず、書類の原型を作るのが大変でした。署名や国会請願、要望書など作成する書類の種類が多いため、混乱してしまって……。1つの書類を作るのに何日もかかるなど、思った以上に時間を要しました。しかも、最後の最後まで間違いがあったりして、何度も見直して。また、印刷枚数が何千枚にもなるのでその用紙を事務所に持ち帰るのもひと苦労。しかも猛暑の中……。サポメンさんやスタッフにお手伝いをお願いする都合上、予定通りに進まないときには本当にハラハラしました」(きんたろうさん)。

そして、ついに7月30日に全国653カ所のART実施施設に署名協力依頼を発送、さらに8月24日には国会議員(衆議院480名、参議院242名)への発送を終了したのです。
「このときは達成感でいっぱいになりました」ときんたろうさん。
各地のART実施施設に署名依頼の書類が届く頃、今日ちゃんはFineのメールマガジンで訴えました。

(メールマガジンより抜粋)
 ◆医療関係者の皆様へ
  一両日中に、貴院にFineからの書簡が届く予定です。
  ぜひ、ご一読のうえ、ご協力いただけますようお願いいたします。
 ◆患者の皆さんへ
  皆さんのクリニックに、Fineからの書簡が届きます。
  もしも今週中にクリニックにポスターが貼られていなければ
  ぜひ、お尋ねください。
  「患者団体のFineから、署名活動のお願いが届きませんでしたか?」と。
 ◆個人でご協力いただける皆さんへ
   Fineのサイトから署名用紙をダウンロードして、ぜひご署名ください!
  ご家族やご友人にも、ぜひ協力いただければと思います。

 皆さんのご協力を、心からお待ちしています。
 一人ひとりの、自筆でのサインが必要です。
 私たち不妊治療患者の経済的負担を軽減するためにぜひ、ご協力ください!


あなたが通うクリニックには、署名用紙が置かれているでしょうか? 署名活動に賛同し協力いただいた施設は、Fineのホームページでも紹介しています。中には、依頼をせずとも自ら協力を申し出た施設もあります。
「今回の活動は、患者の経済的な負担が少しでも減ることを目的にしたものです。こうした面も含めて治療環境を向上しよう、見直そうと取り組む姿勢が、対応から見えてくると思いませんか? もちろん、クリニックによって考え方はさまざまで、施設としては協力できないけれどスタッフが個人的に署名を集めてくださるというケースも。
こうした一人ひとりの思いこそが、私たちFineが一歩ずつ前へと進む力になると、改めて感じています」(今日ちゃん)。

Fineには、各地のART実施施設や国会議員事務所より、協力の有無の返事が届いています。そこには「一刻も早く実現すべき課題」「早期に保険適用されるように政治の責任を果たすべき」などの一筆が添えられていることも。
「返信に温かい応援のコメントをいただくと、とても嬉しいものです。逆に厳しいことが書かれていることもあります。いずれにしても、不妊治療への関心の深さがうかがえ、感慨深いものがあります。私自身、今まであまり政治には関心がなかったのですが、今回の経験で政治への関心が湧き、身近に感じるようになりました。また、個人で署名された用紙を送ってくださる方もいて、その気持ちがとても嬉しく、いつかお礼が言いたいです」(きんたろうさん)。

■Fineスタッフ、国会議員への直訴に挑む!?
集まった署名は、11月中旬をめどに一旦、Fineで回収し、12月中に国会請願をする予定です。国会への請願は国会議員により行なわれるため、その請願を数名の議員にお願いすることになります。
これまでの活動で培った人脈や今回の協力依頼の返事などを参考にし、9月には公明党・高木美智代議員、自由民主党・牧原秀樹議員、民主党・足立信也議員、そして第3次小泉改造内閣で少子化・男女共同参画担当大臣として活躍した自由民主党・猪口邦子議員との面会が実現しました。

数名の議員に会った今日ちゃんの感想は?
「あくまで個人的な印象ですが、少子化対策の一環として“産み・育てやすい環境”を追求する昨今、不妊治療にはほとんど目が向けられていないと感じていたのです。でも、実はそうでもないのだと感じました。

不妊も少子化に影響する問題であると捉えてはいるものの、実状把握や具体案が検討されていないのが現状のようです。不妊治療に関心を持つ人、保険適用を望む人が、現実に存在することを具体的に示すためにも、この署名活動や請願には、とても意味があるのです。時間はかかるかもしれませんが可能性はありそうだと感触を得ました。ネバーギブアップの精神でチャレンジする心構えです。それと、やはり患者の声は大事だと強く思いました。その数が多いほど耳を傾けてもらえる、つまり“数の論理”は強いということ。国民のコンセンサスを得るためには、患者以外で賛成・賛同する人が多いことも大切です。ぜひ、ご家族や親戚、友人など、周りの人にも声をかけてみてください。1名でも多くの声(署名)を国会に届けましょう!」(今日ちゃん)。
今後は全党派の国会議員に会うことを目標とし、さらに活動を続けます。

■12月の国会請願へ向けて
引き続き、個人やクリニックでの協力依頼を呼びかけて賛同者を増やすとともに、12月の国会請願に向けての準備も進めます。
「今後発生する作業については随時、サポメンMLでお手伝い募集をしますので少しでも関心のある方、お時間のある方は、ぜひご連絡ください。初めての署名活動&国会請願を無事に終えられるように、みなさんのご協力をお願いします」(きんたろうさん)。

不妊治療にかかる費用が少しでも少なくなれば……そんな思いから始まった署名活動。今日ちゃんの言葉には、声を出さなければ、それに耳を傾ける人もいないのだと、改めて考えさせられました。
まず当事者が声をあげ、そして周囲の理解を深めつつ、一歩ずつ前に進んで行く。そうした地道な活動は、NPO法人Fineの存在を社会にアピールするチャンスでもあります。

この「不妊治療に関わるすべての薬剤と検査に対する保険適用」は、長いスパンで取り組むことになるでしょう。ぜひ皆さんも関心を持って、活動にご協力ください。
私たち一人ひとりの声は、必ず届きます!
今日ちゃん
さて、ここからはいわば「号外」です。特集の原稿ができあがった後、署名活動でさらなる動きがあったので、皆さんにいち早くお伝えしますね!

私たちは引き続き国会議員会館に何度か足を運び、さらに数名の議員さんと面談することができました。糸川正晃議員(衆・国民新党)、小池晃議員(参・日本共産党)、重野安正議員(衆・社民党)、野田聖子議員(衆・自由民主党)です。そしてなんと、猪口邦子議員の紹介で厚生労働省の保険担当の方から直接意見をいただくこともできたのです!
面談の時間は5分から1時間以上とさまざまでしたが、皆さん忙しい中、できる限りの時間を割いてくださったという印象。私たちは当事者の要望を伝えるだけでなく、今後の活動に関する大きなヒントを多数いただきました。それは各議員の得意分野や、これまでの多くの活動経験によるもので、私たちは大いに勉強させてもらったとともに、その親身なアドバイスに感動しました。

正直言って、これまで「政治」なんて、私にとってはどこかヒトゴトでした。法律は「決まりごと」であり、それを決めるのは私たちではないし、私たちはそれに従うことしかできない、受身でしかないと思っていたからです。だから政治にはほとんど無関心。そりゃ一応オトナですから、選挙にはとりあえず行くものの、マニフェストを見ても聞いても、いまひとつピンと来なかったし、自分が政治の恩恵を受けているとは到底思えなかった。逆に「損ばっかり」って思ってました。不妊治療のお金が非常に高額で、どれだけ私たちの家計がたいへんでも、税金はフツーに払わなくてはならないし、政府からはなんのサポートもなかった。国の目は不妊患者などには向けられていないし、また向けられるものではないと諦めていました。やっとこさ助成金が出るようになったのは、私が治療から遠ざかって数年経ってからのことです。

でも、今回のことで「そんなこともなかったんだ」ということがわかったのです。政治はヒトゴトじゃなかったんだなと。決まりごとは確かに私たちが作るものではないけれど、意見を言うことはできるし、言えば聞いてくれる場もあるのだと。これは私にとって、たいへん大きな意識改革でした。。

今回、保険適用に向けての署名活動を、ある学会の学術集会の会場でも行ないました。そこでは数十名の医療者の方が署名をしてくださいました。あるドクターが署名をしながら、ため息をつくように諦めるようにおっしゃいました。「保険適用になるといいよね。でもどうせなりゃしないんだけどね」。他にもそんな声は多く聞こえてきました。
そう。私もずっとそう思っていました。「そんなのどうせムリに決まってる」って。だから、「何をやっても無駄だ」って。
でも、今は少し違います。「とりあえず、やってみよう!」と思ったのです。やる前から諦めてしまって何もしなければ、ずっと何も変わらない。ここ一番のときには「あたって砕けろ」の精神でやってみることも大切なのだと。

そうそう、砕けたっていいじゃない、またあたればいいこと! 少なくとも砕けたカケラから、今後の課題を見つけることはできます。それって宝。だって「動いた証」だから。それに、課題が見つかれば、軌道修正ができます。そうやって少しずつでも進んでいけば、何かが変わる日がくるかもしれません。
今回の国会請願は私たちの、まだたったの「第一歩」。それなのに、このたったの一歩で学んだことが、すでにたくさんあります。それによって今後の活動には、多少修正が入るでしょう。そして、だからこそきっと私たちは、次は、もう少し強い二歩目を踏み出すことができるでしょう! その一歩一歩は、すごく貴重な歩みとなることを確信しています。
私たちの手元には、全国から集まった「あなたの記した署名」があります。そのすべての人たちとともに、また次の一歩を踏み出すつもりです。引き続き、私たちと一緒に、歩いてくださいね!
あなたの協力が、声が、思いが、この上ない力となり、常に私たちを動かしてくれていることを、どうぞ忘れないでいてくれたらなぁと思います。
いつも本当にありがとう。これからもずっと、よろしくお願いします。

◆今後の予定(若干変更になっています)
 署名のとりまとめ 10月20日締め切り ⇒ 11月初旬に国会請願へ!
◆ぜひ、次回もご協力を!
 国会請願はそのつど新しく署名していただけます。第2回目もご協力を!


【署名活動のおもな流れ】 (2007年)
・ 2月:スタッフミーティングで署名活動の実施を決定
・ 3月:担当決定、作業を開始
・ 6月中旬:各種書類作成が大詰めを迎える
・ 7月上旬:ART実施施設向けの作業を開始
  (名簿・書類作成、書類印刷、封入、発送作業など)
・ 7月30日:ART実施施設653カ所への発送終了
・ 8月上旬:国会議員向けの作業を開始
  (名簿・書類作成、書類印刷、封入、発送作業など)
・ 8月24日:国会議員722名への発送終了

【ART実施施設に送付した書類の内訳】
・ 署名ご協力お願い書
・ 請願の趣旨
・ 返信書(署名活動に賛同か、パンフレットを置いてくれる
  かの返事)
・ 署名アンケート返信書(Fax用)
・ 署名用紙(説明付)
・ 署名取りまとめ書(署名用紙取りまとめの表紙)
・ Fineのパンフレット
・ Fineの活動紹介
・ 署名を呼びかけるポスター
※書類を印刷(複数枚のものはホチキス留めをする)、折った後に封入作業、郵送しました。