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拝啓
平素は医療行政並びに健康・福祉行政にご尽力いただきまして、ありがとうございます。
私どもFine(Fertility Information Network)は、2004年に任意団体として設立した不妊体験をもつ当事者によるセルフ・サポートグループで、2005年1月18日にNPO法人格を取得しました(会員数約400名/2005年4月現在)。
私どもは、主として不妊体験をもつ一般市民を対象として、不妊治療患者が正しい情報に基づき、自分で納得して選択した治療を安心して受けられる環境を整えることなどを目的として、主にインターネットを通して情報を提供し、不妊当事者同士、また当事者とその周囲の方々のネットワークを構築するべく活動しています。さらに、公的機関への働きかけなどを行なうことによって不妊に関する啓発活動、意識変革活動も行なっております。
日本における不妊症に悩むカップルは10組に1組といわれ、何らかの不妊治療を受けている人は30万人近いと推測されています1)。現代では不妊治療を行なう医療施設の増加や自治体による相談窓口の設置など、受診や相談もしやすくなったことに加え、生殖補助医療の技術も年々向上しており、先日発表された日本産科婦人科学会の2002年の出生数調査によると、体外受精によって国内で生まれた子どもは2002年までの累積で10万人を超えました2)。さらに2002年単独では年間出生数115万3855人3)のうち、体外受精によって生まれた子どもの数は1万5223人と全体の1.3%を占め、体外受精だけでも実に76人に1人の割合となっています。
しかしながら、これだけ不妊治療の恩恵を受け念願のわが子を手に抱くことができる人が増えている一方で、高度生殖補助医療である体外受精まで行なってもよい結果が得られず、繰り返しこの治療を受けても子どもに恵まれない不妊患者も決して少なくありません。結婚・出産が高齢化してきている現代4)では不妊治療を開始する年齢も上がってきていることも原因のひとつといわれています。そのような高齢の患者あるいは難治性不妊症患者に対して効果があるということで、現在日本国内で販売されているスプレキュアなどのGnRHアゴニストの代わりに近年使用されることが多くなってきているのが、セトロタイド(GnRHアンタゴニスト)です。ご存知のとおり、海外では2000年より承認を受け使用されている薬であり、現在では89カ国において認可されています。この薬を使用することにより、上記の患者においても妊娠率が向上したという報告5)が多数あります。また排卵誘発剤(hMG)の使用量が少なくてすむため体への負担が少ないこと、また、特に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の患者などが不妊治療を行なう上で、最も気をつけなければならない重篤な副作用のひとつである卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発生の可能性が低いこと6)など大切なメリットがあることからも、私たち患者はクリニックを通じた個人輸入という形でこの薬剤を使用することが少なくありません。そのため現在では限られたクリニックでしか使用出来ず、もちろん公立病院では不可です。使用を希望する患者に不公平となっています。承認がおりていない現状では薬価もそのぶん高額になってしまい、なによりも万が一健康被害が起こった場合はすべて自己責任となり、なんの補償も受けることはできません。私たち患者はそのリスクをすべて個人で背負わなくてはならないというデメリットがあるのです。
子どもを切望しながらも妊娠に至らない不妊患者たちは、少しでも妊娠できる可能性のある新たな治療法を常に待ち望んでいます。昨年ベルリンで行なわれた国際不妊患者団体連合(iCSi=International Consumer Support for Infertility network)会議に参加した際の他国の不妊患者代表たちの話でも、セトロタイドはすでに各国で使用されており、体の負担が少なくてよいということでした。日本はこれだけ医療が進んでいるのになぜ使用していないのだと逆に聞かれてしまい、答えに窮しました。
私たちは日本国内においてもセトロタイドをどの病院でも自由に、かつ製薬会社によるしっかりとした補償と安全管理のもと安心して使用できるようになることを心から願っております。
少子化問題が取り沙汰されて久しい近年、ようやく、産むのを躊躇する女性への保育や育児に対するサポートだけではなく、産みたくて努力していても産めない女性たちへのサポートを、昨年ついに不妊治療助成金という形で実現してくださったことには心から感謝しております。このような経済的なサポートも大変ありがたいことではありますが、それだけではなく、さらなる希望のひとつとして、不妊治療にこのような新しい治療法を追加していただくことも私たち患者にとっては大切なことだと考えます。ぜひ、セトロタイドをできるだけ早く承認していただき、私たち患者が個人でリスクを負うことなく安心して使用できるようにしていただくことをご要望申し上げます。
敬具
NPO法人 Fine(https://j-fine.jp/)
理事長 松本亜樹子 ならびに賛同者一同
<参考>
1)不妊治療を受けている患者数:平成10(1998)年度厚生科学研究費補助金厚生科学特別研究「生殖補助医療技術に対する医師及び国民の意識に関する研究」では、不妊治療の患者数を284,800人と推測。
2)体外受精(顕微授精を含む)での累積出生児数:平成2002年(14年)の報告では100,189人。『日産婦誌』57巻第1号・平成14年分の体外受精・肺移植等の臨床実施成績より
3)2002年(平成14年)の出生数:1,153,855人。「人口動態統計」(厚生労働省)より。
4)女性の初婚年齢:1970年は24.2歳、2002年には27.4歳。「人口動態統計」(厚生労働省)より。
第1子出生時の母の平均年齢:1965年は25.7歳、2002年には28.6歳。「人口動態統計」(厚生労働省)より。
5)『産婦人科の世界』vol.56(医学の世界社)「GnRHアンタゴニストとGnRHアゴニストの作用機序」吉村泰典、『臨婦産』55巻7号「Poor responderの対策」中川浩次/山野修司/青野敏博
6)『進化していく体外受精Progress』改定4版(メジカルビュー社)、『HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY』「GnRHアンタゴニストの臨床応用の展望」高橋健太郎/宮崎康二、『産婦人科治療』vol.88増刊「ART周期におけるPCOSに対する卵巣刺激」永吉基/田中温/栗田松一郎/姫野憲雄/田中威づみ
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