●NPO法人Fine 理事長 松本亜樹子
●NPO法人Fine サポートメンバー
株式会社東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部 コンサルタント 永池明日香
東京都は2018年度に新規事業として、不妊治療と仕事の両立支援に取り組む企業を後押しする「働く人のチャイルドプランサポート事業」を開始しました。この事業は、「都民による事業提案制度」で採択され、<1>働く人のチャイルドプランサポート制度整備奨励金の支給、<2>不妊治療と仕事の両立に関する研修の実施、<3>不妊治療と仕事の両立推進シンポジウムの開催の3つの支援メニューを用意するものです。本来1年の単年度事業の予定でしたが、企業や当事者からの反響が大きかったことから、2019年度も継続して事業を実施することになりました。これまでセンシティブな問題として敬遠されがちだった不妊治療について、このような事業が東京都で開始されたことは、不妊治療当事者支援をしてきたNPO法人Fineにとって大きな一歩となるできごとであり、Fineは2018年、2019年とも、「不妊治療と仕事の両立推進セミナー(2019年度はシンポジウム)」「不妊治療と仕事の両立に関する研修」に登壇するなど全面協力しています。 そのFine理事長の松本と、2018年の本事業のセミナーおよび研修の運営事業を受諾した東レ経営研究所のコンサルタントであり、現在はNPO法人Fineのサポートメンバーでもある永池が、事業の意義、仕事と不妊治療の両立の難しさ、企業、当事者にできることなどについての考えや思いを語り合いました。
永池:東京都がこのような事業を開始したことについて、どのようにお考えでしょうか。
松本:不妊治療に関しては、これまでも一部の自治体は仕事との両立に着目した取り組みがなされていましたが、その多くはどちらかというと「当事者に対する支援」や「不妊治療や不妊・妊活の啓発」でした。東京都という一番大きな自治体が、その「当事者サポート」に向けられていたベクトルを、「企業」にも向けてくださったことは、他の自治体への影響が大きいと思われるため、とてもありがたいことです。
永池:都民による事業提案制度で採択されるほど、仕事と不妊治療の両立に悩んでいる人がたくさんいるにも関わらず、「自分の周りに治療をしている人はいない」と思っている人が多いという現状があります。なぜだと思われますか?
松本:やはり周囲に不妊のことを話しづらい雰囲気があるのだろうと思います。この原因をたどると、教育をはじめ、人々の意識の問題にもかかわってきます。私たちは、教育で避妊、性病、中絶などについてはひと通り学びながらも、「不妊」については学んできていません。そのため、自分がそうなることが想像できず、なったときに自分はマイノリティだと感じてしまい、周囲に話しづらいということにつながるのだと思います。また、不妊はセンシティブな問題とされ、過剰に気遣いをされることも多い、つまりタブー視されるという風潮ができていることも原因のひとつであると思います。
永池:確かに、私も自分が治療をするまでは意識してこなかったかもしれません。「自分は大丈夫」と思ってしまいがちですよね。
松本:「避妊」は教わりますが、「妊娠しないことがある」ことを教わっていないのですよね。そのため、月経があれば、いつでも妊娠できると女性だけでなく、男性も思っているわけです。それが、晩婚化、晩産化にもつながっているのではないかと思います。
永池:Fineでは、不妊治療当事者には身体的、精神的、経済的、時間的の4つの負担があると言っていますね。特に仕事との両立における重大なテーマである時間的負担についてお聞きします。通院が突発的だったり、見通しが立てづらかったり、頻繁に必要になったりする、周囲に話しづらいため理解が得にくいなど、いろいろありますが、何が一番の課題だと思われますか。
松本:一番の問題は、周囲の理解不足です。企業のマネジメント層が、不妊治療に対する正しい知識や情報を持っていないことが課題だと思います。現在、5.5組に1組のカップルが不妊治療をしており、不妊は決して特別な人の問題ではないわけですが、このことを知らないうえ、当事者が話せる環境もないため、「自分の周囲には不妊に悩んでいる人がいない」と思ってしまい、当事者への配慮ができないのではないでしょうか。また、組織に「お互いさま」という風土がないことも問題だと思います。そこが変わらないと、制度が充実しても、休みが取れない人が後を絶ちません。これは何も不妊治療に限らず、育児、介護、他の疾病治療など、すべてにおいて言えることだと思います。
永池:制度を利用できる風土の醸成が大事、まさにダイバーシティ&インクルージョンの考え方と同じです。多様な人材を活用していくには、それぞれの事情を考慮して業務を進めなければならず、制度を作ることは大事ですが、その制度を使えなければ意味がないんです。
私の所属している部署は仕事がら不妊治療に対する理解がありました。理解している人に対しては話してみようかなと思えますよね。それは当事者にとってとても大事なことだと思います。
ところで、東京都で2018年度に企業向けに8回の研修を実施されましたが、いかがでしたか?
松本:想定していたよりも多くの企業の方が参加してくださったことに正直、とても驚きました。不妊治療というテーマに目を向けてくださったことは、嬉しいサプライズでした。
永池:参加者のアンケートからは「目からウロコでした」「初めて知りました」というような声が目立ち、人事担当者であっても不妊や不妊治療については知らない人が多いことを実感しました。人事担当者がそうだとすると、職場の多くの人はおそらくもっと知らないのだろうと思いました。
松本:だからこそ、東京都の事業のような研修を受講し理解していただき、企業が職場全体に不妊治療に対する理解を広げていったり、必要な支援をしてくださったりすることが、従業員が長く働き続けるためには、とても重要なのですよね。最近は、経済的支援や休暇制度をつくってくださる企業も出てきていて、ありがたいことだと思っています。
永池:今後、企業にできることは何でしょうか。
松本:まずは、マネジメント層の方々に、治療をしている人が周りにいるということを認識していただきたいです。Fineの実施した調査では、仕事と不妊治療の両立を経験した人の5人に1人が退職をしたという結果が出ています。人材不足のこの時代に、本当にもったいないことではないでしょうか。しかも、会社には理由を言わずに辞めてしまう、いわゆる「サプライズ退職」なのです。治療している人の多くは、30代~40代で、仕事にやりがいを持ち、部下ができたりプロジェクトリーダーを任されたりという、まさに働き盛りの女性です。そんな女性たちが、次々に退職していくのは、企業にとっても社会にとっても大きな損失であり、食い止める必要があるのではないかと思います。
永池:そのためには、やはり上司の理解が大事ですよね。業務に支障が出そうなときに、最初に相談するのは上司です。そのときの上司の反応によって、治療や仕事を続けるか否かが変わってしまうこともあると思います。
松本:そうなんです、まさに人生が変わってしまいますよね。Fineが実施した「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part 2」に寄せられたコメントでは、上司の言動によって仕事を続けることができたケースと、退職しなくてはならなくなったケース、どちらも見受けられました。「不妊白書2018」にも少し掲載していますが、ここは大きなポイントだと感じています。まずは知ることから始めていただき、そこから支援へ一歩ずつ進んでいただければと思います。
永池:私は、ダイバーシティを推進する立場としても、不妊治療の当事者に仕事も治療もあきらめてほしくないと思っています。そのために、当事者にもできることがあると思いますが、その点についてはいかがですか。
松本:難しいことですが、勇気を出して不妊治療をしていることを伝えてみることが大事なのではないでしょうか。そうすれば、必ず「私も治療している」という人が出てくると思いますし、周りへの理解醸成につながることもあると思います。そして、不妊治療を隠すのではなく、両立するための方法を上司と相談する勇気を持っていただきたいです。
永池:大事なことですよね。職場に話したくないという人も多いですが、私は伝えることで楽になることもあると思っています。
職場には、不妊治療をしている人、これからしようか検討している人がいるかもしれません。そのような人たちが仕事を辞めずに妊活や不妊治療もがんばれる、そんな組織をめざして、企業として取り組みを始めてみませんか?仕事と妊活、不妊治療との両立について、企業内で制度設計や啓発を検討されたい際は、是非Fineまでご相談ください!
Fineでは、企業内で理解醸成のための講演や研修を実施したり、キャリアプランとからめたワークショップを行なったりしています。また、不妊治療休暇などの制度設計に関する具体的アドバイスや、不妊治療に関する相談を受けることができるカウンセラー(※Fine認定ピア・カウンセラー)の派遣などの企業向けプログラムを用意しています。
※Fine認定ピア・カウンセラーとは、Fine不妊ピア・カウンセラー養成講座を受講し、試験に合格して認定を受けた不妊体験者のカウンセラーのこと
●「研修・講演」
・従業員のリプロダクティブヘルス&ライツ・キャリアをサポートするための管理職・マネジメント層向け研修・講演
・ワークライフバランスの取り組みと長く働き続けられるための新人/従業員研修
・プレ・マタニティハラスメントにならないための管理職研修・講演
●「制度導入コンサルティング」
・不妊治療と仕事の両立のための制度設計/運用に関するアドバイス・コンサルティング
●「従業員の不妊メンタルヘルスサポート」
・不妊/不妊治療に悩む従業員のための不妊心理カウンセリング(提携/派遣など)
●その他、妊活・不妊に関する事業
・妊活・不妊に関するご相談は、15年間の不妊当事者支援の実績を誇り、内閣府女性チャレンジ支援賞
女性活躍推進大賞優秀賞も受賞している当法人に、何なりとお寄せください。