不妊症患者をはじめ不妊で悩む人をサポートするNPO法人Fineは、このたび日本オルガノン株式会社の協力の下、NPO法人日本不妊予防協会との協同調査を実施いたしました。
調査目的
日本人カップルの10組に1組は不妊といわれているにも関わらず、「不妊」や「不妊治療」は世間一般の理解を得られているとは言い難く、不妊に関する正しい知識はまだまだ浸透していないのが現状です。 また妊娠に関わる自らの身体のメカニズムを理解していない女性も多く、不妊予備軍となる可能性もあります。この調査は、不妊体験の有無により不妊の知識や意識に違いはあるか、また、あるとしたらどのような違いがあるのかを明確にし、その結果をもとに広く一般に向けての「不妊」や「不妊治療」の啓発に努めるべく実施したものです。また不妊に関する正しい知識を身につけることで不妊当事者への偏見をなくすこと、さらに不妊を予防するための一助となることも目的としています。
調査方法
インターネットのウェブサイトを利用し、NPO法人Fineの会員を主とした不妊体験者約100名と一般女性約100名の回答を収集、解析しました。
調査結果(抜粋)
調査協力者のプロフィールに加え、不妊に関する知識問題を17問、意識問題を3問の合計20問の選択式設問による調査を実施しました。設問の一部と回答および解説をご紹介します。
正解率:不妊経験女性で75%、一般女性で49%
解説:一般的に挙児を希望している夫婦が1周期あたりに妊娠する確率は、年齢にもよりますが約25〜30%と考えられています。1年以内では80%、2年以内では90%となります。したがって、わが国では、健康な夫婦が正常な性生活を営んでいるにもかかわらず、2年以上経過しても妊娠の成立をみない状態を不妊と定義しています。すなわち10組に1組です。
正解率:不妊経験女性18%、一般女性11%
解説:女性の生殖能力は、加齢に伴う卵巣予備能の低下、保有卵子数の減少、卵子の質の低下、異常受精、子宮内膜の受容能、子宮内膜症や子宮筋腫の増加、産児制限、性交回数の減少など、さまざまな要因によって低下します。これらの要因が混在しているので、女性の生殖能力が低下し始める年代を突き止めるのは簡単ではありません。しかし、宗教的理由から避妊を行なわない集団(アーミシュ)を対象とした調査報告では、不妊率は、25歳未満で3.5%程度、25−29歳で7%、30−34歳で11%、35−39歳で33%、40−44歳で87%、45−49歳では100%となっています。ここから、25-29歳の不妊率が25歳未満の不妊率の2倍であることがわかります。 また、25歳以下の健康女性は、挙児を希望してから平均2−3カ月で妊娠しますが、35歳以降の女性では、6カ月以上を要します。 さらに、AID(非配偶者間人工授精)による妊娠率は、25歳以下の女性では1周期あたり11%ですが、35歳以上では、6.5%に低下します。 以上の事実から類推すると、女性の生殖能力は25歳以降、徐々に低下し始めると考えられます。
解説:男性の生殖能力には個人差はありますが、青・壮年期では通常あまり低下しません。しかし、60歳を過ぎると徐々に低下してくると考えられています。ただし、造精機能はかなり高齢(90歳代以降)でも残存しているという報告があります。
解説:一般的な健康診断は、本人の健康状態を把握し、疾患に罹患することを予防するためのものです。そのため、健康や生命維持に不可欠ではない生殖機能は直接診断されません。逆に言えば、本人の肉体が健康であっても、精神的ストレスや、ホルモンバランス、過労、睡眠不足、生活習慣、加齢などで不妊となっている場合があるのです。
正解率:不妊経験女性47%、一般女性36%
解説:ピルの使用が子宮内膜症の発症を抑制するという疫学的研究報告があります。また、ピルはエストロゲンとプロゲステロンの合剤であり、偽妊娠療法として古くより子宮内膜症の治療にも用いられてきました。したがって、子宮内膜症の発症を予防することが可能であり、ある程度の不妊予防効果も期待できます。
解説:コンドームを使うと、性行為中の性器の直接接触が避けられるので、性感染症の予防に効果があります。性感染症は卵管性、子宮性の不妊の主要な原因として挙げられるので、不妊に対する予防効果も期待できるというわけです。ただし、性行為は性器の直接接触のみではないので、完全な予防効果は期待できません。
解説:不妊の原因別頻度は、病院や診療所を受診して不妊症と診断された夫婦の原因別頻度として表されるのが一般的です。したがって、各施設間でばらつきがあると一概には表せない面があります。最も一般的な不妊の国際的疫学調査として、WHOの統計があります。それによれば女性のみの単独不妊因子の頻度は41%です。
解説:不妊の原因別頻度は、病院や診療所を受診して不妊症と診断された夫婦の原因別頻度として表されるのが一般的です。したがって、各施設間でばらつきがあると一概には表せない面があります。最も一般的な不妊の国際的疫学調査として、WHOの統計があります。それによれば男性のみの単独不妊因子の頻度は24%です。
正解率:不妊経験女性52%、一般女性31%
解説:不妊の原因別頻度は、病院や診療所を受診して不妊症と診断された夫婦の原因別頻度として表されるのが一般的です。したがって、各施設間でばらつきがあると一概には表せない面があります。最も一般的な不妊の国際的疫学調査として、WHOの統計があります。それによれば男女両性不妊因子の頻度は24%です。
解説:不妊の原因別頻度は、病院や診療所を受診して不妊症と診断された夫婦の原因別頻度として表されるのが一般的です。したがって、各施設間でばらつきがあると一概には表せない面があります。最も一般的な不妊の国際的疫学調査として、WHOの統計があります。それによれば原因不明の不妊頻度は11%です。
解説:一般的に挙児を希望している夫婦が1周期あたりに妊娠する確率は年齢にもよりますが、約25〜30%と考えられています。1年以内では80%、2年以内では90%となります。わが国では、健康な夫婦が正常な性生活を営んでいるにもかかわらず、2年以上経過しても妊娠の成立を見ない状態を不妊と定義しています。しかし、欧米では1年経過しても妊娠しない場合を不妊と定義しています。
正解率:不妊経験女性92%、一般女性48%
解説:人工授精は、AIH(配偶者間人工授精)とAID(非配偶者間人工授精)に大別されます。AIHは妻の排卵日を周期ごとに超音波検査、ホルモン測定、基礎体温(BBT)などで予測して、夫の洗浄精子浮遊液を子宮腔内に注入する方法で、AIDは夫以外の非配偶者の精子を注入する方法です。これに対して妻の卵子を人工的に体外に取り出して、夫の精子と受精させ、ある一定の段階に発生した受精卵(胚)を子宮内にもどす方法を、体外受精・胚移植(IVF-ET)と呼びます。
解説:不妊症は病気であるという認識は欧米では常識ですが、わが国ではまだ不妊症が病気であるとは認められていない部分があります。したがって、人工授精や体外受精などの先進的医療には保険適応がされておりません。 しかし、最近では体外受精に対して助成金制度や、各都道府県で補助金制度なども始まっています。
解説:不妊症は病気であるという認識は欧米では常識ですが、わが国ではまだ不妊症が病気であるとは認められていない部分があります。したがって、人工授精や体外受精などの先進的医療には保険適応がされておりません。 しかし、最近では体外受精に対して助成金制度や、各都道府県で補助金制度なども始まっています。
解説:人工授精に関する費用の統計はありませんが、精液検査、精子洗浄、精子浮遊液作製、子宮内媒精手技を含めて1万〜3万円未満が標準的だと思います。それに加えて排卵誘発剤(hMG-hCG)などを併用した場合には、投与回数にもよりますが2万円〜5万円未満になると考えられます。
解説:IVFニュース編集委員会の調査によると、体外受精1回あたりの費用は25万円〜29万円であると答えた施設が最も多く約35%でした。次いで、20万円〜24万円が32%、30万円〜34万円台が14%、35万円台〜39万円が10%でした。したがって、これらを合計すれば20万円〜40万円未満までが全体の91%を占めていることになります。ちなみに20万円未満は6%、40万円以上は3%でした。
正解率:不妊経験女性42%、一般女性11%
解説:2003年度におけるわが国の総出生児数は1,123,600人であり、体外受精で生まれた出生児数はそのうち17,400人でした。ということは65人に1人が体外受精(生殖補助医療;ART)で生まれたことになります。2004年度は、61人に1人。
解説:日本産科婦人科学会の会告によれば、体外受精では通常、受精卵を3個まで移植することが認められています。このため、多胎となる可能性は避けられませんが、最近では、女性の年齢や条件にもよりますが、多胎妊娠予防の観点から、3個胚移植よりも2個胚あるいは1個胚移植が推奨されているので、多胎となる確率もかなり低下してきています。
考察および結論
調査対象となった女性に対して「不妊で病院に行くのは抵抗を感じるか?」という予備的な質問をしたところ、
69%が「ある」と答えました。不妊治療のための通院は女性にとってハードルが高いと言えます。
その原因の一部は不妊治療に対する誤った知識にあることが、今回の調査結果から示唆されました。
また、誤った知識が不妊をもたらす原因になっている可能性も示唆されました。以下に、これらの見解を支持する結果を示します。
生殖能力の低下は何歳ぐらいから始まるのでしょうか?この設問(Q2)に対する正解率は非常に低く、不妊経験女性で18%、一般女性で11%にとどまりました。正解は「20代後半」ですが、不妊経験の有無を問わず大半が30代以上で低下すると答えました。女性が自分自身の生殖能力を過信しているということであり、こうした誤った知識が不妊を増やす原因になっている可能性があります。
経口避妊薬(ピル)の服用には不妊予防の効果があることが知られていますが、これについては不妊経験女性の47%が、一般女性の36%が認識していました(Q5)。コンドームの使用についても同様のことが言えますが、正解率はやはりこの程度でした。不妊予防についての認識はまだまだ低く、今後の啓発が必要と言えます。
不妊カップルのどちらに不妊の原因があるかを問うた設問では、一般女性の51%が「全体の45%は男性だけに原因がある(正解は25%)」と答えました。また「両方に原因がある確率は5%しかない(正解は25%)」と考えている一般女性が26%もいることもわかりました(Q9)。一般女性の多くが、不妊を他人事ととらえる傾向があると言えます。
人工授精とは何であるかを問う設問(Q12)については、不妊経験女性の92%が正解したのに対し、一般女性では48%にとどまりました。人工授精と体外受精の違いが理解されておらず、不妊治療=体外受精(顕微授精)ととらえる人が多いことが改めて示されたと言えます。
「人工授精の費用はいくら?」の設問には、不妊経験女性の72%が正解しました。一方、一般女性の正解率は20%と低く、8割の人がそれよりも高額だと答えました。「体外受精の費用はいくら?」という設問に対しても同様の傾向が確認され、不妊治療は実際より高額だと認識されていることがわかりました。
「2003年、日本における体外受精や顕微授精で生まれた子どもは、全体出生数の何人に一人の割合でしょうか?」(Q16)の設問に対する正解率は、不妊経験女性でも42%と低く、一般女性にいたっては、わずか11%にしか過ぎませんでした。正解は65人に1人ですが、290人に1人と答えた人が全体の34%を占めました。体外受精に対する正しい情報の浸透度の低さを如実に示しており、体外受精を特別視する要因のひとつであると考えられます。
リプロダクテイブ・ヘルス、ライツでは、女性の安全で健康な妊娠・出産の権利を保障していますが、自己決定が可能なのと、生みたくても生めないのとでは大きな違いがあります。また、生まないと決めていた女性でも、何らかの事情により状況が変わって生みたいと思い始めることがあり、その時に不妊であることが分かったのでは遅すぎます。このような悲劇を未然に防ぐためには、不妊や不妊治療に関する知識の理解度を調査検討することで、誤解されている部分を払拭し、正しい知識が得られるように普及に努めなければならないと考えます。
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