不妊について

不妊体験談「ふぁいん・すたいる」

「不妊治療と仕事の両立」
上野真樹子 さん(東京都在住)

私は大学卒業後、システムエンジニアとして製造メーカーに就職し、3年後に社内結婚しました。その翌年に妊娠したものの、9週で流産。基礎体温をつけタイミングをあわせて、ほどなく妊娠したので、「妊娠ってけっこう簡単」と思ってしまったのです。

その後は仕事も忙しくなり、特に意識することなく、30歳を過ぎた頃から「今後の人生を考えるうえで、私たちに子どもができるかどうかを確認して、できるのであれば、そろそろつくっておかなくては」という気持ちになり、産婦人科に行きました。

訪ねた病院では「こうのとりレッスン」という不妊治療の説明会をやっていて、そこで先生が「不妊治療は、がんなどと違って治療しないと死んでしまうものではありません。やらなくてもOK です。どこまで治療をするかは、最初にご夫婦で話し合っておいてください」と言われたのです。その言葉の重要性は、あとになってよくわかりました。

まずは検査をひと通り受け、特に問題なし。その間も毎月、卵胞チェックに病院に行き、卵が育っていることを確認して、タイミングをはかるけれど、生理がくる。夫は検査を嫌がることなく受け、結果もとてもよかったので、問題はきっと私にあるはず。

でもそれがわからず、毎月「なんでダメなの?」の繰り返しでした。このときが一番つらく、同僚がデスクに飾っている子どもの写真を見るだけで、涙がポロポロ出る。駅で妊婦さんを見ると階段から突き落とし衝動にかられる・・・もうボロボロになっていました。

それでもカウンセリングを受けながら、なんとか治療を続けていました。

あるとき、先生から「卵管が通っていないかも」と言われ、腹腔鏡下卵管形成術を受けたところ、子宮と卵管と卵巣が癒着していました。癒着をはがし、片方の卵管は通るようになったものの、もう片方の卵管は水は通るけれど、卵の大きさの管は通りませんでした。

先生からは「半年ぐらいタイミングを合わせてみて、だめだったら体外受精ですかね。卵管の問題だけですから体外受精がうまくいく確率は平均より高いと思いますよ」と言われました。

私は、もう半年も待てません。3カ月後、体外受精を申し込みました。

いつしか「なにがなんでも妊娠!」に

「体外受精をしてまで自分たちの子どもがほしいのか」ということを夫と話し合いました。やはり迷いはあります。私たちは最初、子どもができるかどうかチェックするために病院に行ったはずでした。それなのに不妊治療をするうちに、私は「とにかく妊娠しないといけない」という、なかば強迫観念にとらわれていました。おそるべし、不妊治療です。

病院にかかってすぐ原因がわかれば、子どもはあきらめていたかもしれないのに、約2年にわたる不妊治療が、私を「なにがなんでも妊娠しなければ!」という気持ちにさせていました。

「子どもは天からの授かりもの。なのに、体外受精なんて、人間がこんなことしていいの?」・・・・私たちは「体外受精をして必ず子どもが授かるわけではない、人間がすべてをコントロールできるわけではない、やはり子どもは天からの授かりもの」と自分たちを納得させ、3回までと決めて体外受精に踏み切りました。そして、2回目のトライで妊娠、35歳で無事に出産しました。

納得して取り組んだことですが、出産後半年ぐらいは育児で悩むことや、自分がぎっくり腰になったりすると「やはり自分は子どもを持つべきでなかったから授からなかったのに、医学の力で子どもをつくったのは間違っていたのでは」と思い悩むこともありました。

しかし、1年も経てば、そう考えることもなくなりました。

それはたぶん、娘が家族になったからだと思います。「娘がいなかったら」という選択肢はもうなくて、娘はここにいて当たり前で、そのうえで直面した問題に向き合うことができるようになったのです。

仕事との両立、大変だったこと・よかったこと

不妊治療と仕事、なんとか両立できましたが、仕事をしながらはとても大変でした。でもよかったこともあります。収入があることはもちろんですが、仕事中は妊娠のことを忘れることができ、「もしも子どもが授からなくても仕事が残る」と思えることは心の支えになりました。

とはいえ、大変だったことのほうが断然多いです。とにかく「時間がない」。フレックス制や休暇は自由に使えましたが、そのぶん、仕事をする時間が減ります。でも仕事の量は変わりません。そして「仕事の予定が立てにくい」。いつ排卵かわからないので急に休むことになり、その日の予定を他の人にお願いしたり、日程変更してもらったり。申し訳ない気持ちでいっぱいになります。極めつけは、周りから「仕事をしているから子どもができないんじゃない?」と言われること。「じゃあ、やめればできるの?できなかったらあなたが責任とってくれるの?」と心の中で叫びながら、やりすごしていました。

仕事をしていて大変だったこと、それを楽にするために、私が実践して効果があった「仕事の仕方の工夫」があります。

私の職種と職場だからできたことかもしれませんが、何かのヒントになればと思い、紹介します。

「時間がない」には「仕事の効率化」

今まで、8時間かけてやっていた仕事を6時間でやる。そうすれば病院に行く時間が作れます。

これには、短い時間で同じ仕事量をこなす、仕事の効率化が必要でした。今まで、私は優先順位が高い仕事から順番にやっていました。いつも締め切りに追われ、直前にバタバタと仕上げることが多かったのです。また、2日あればできると思って、締め切り2日前に取り掛かったら急な体調変化や治療でできなくなる、ということも。

そこで優先順位の低いもの、やりたくない仕事にも早めに手をつけることをしました。今日やることリストアップの中に、優先順位の低い仕事を1時間入れるのです。すると、早めに仕事に着手でき、他の部署と事前に調整が必要なことがわかったり、他の人に頼めることが見つかったりしました。また、2日でできると予測した仕事が実際には4日かかりそうだとか、仕事量の見積もりが正確になりました。

その結果余裕を持って作業でき、直前にバタバタすることなく、質の高い結果を出せるように。なにより、今までよりも多くの仕事が片付けられるようになりました。

今日やることを1日の最初に書き出す。さらに何時から何時まではこの仕事に費やすと、時間を割り振るのもいいと思います。自分で自分の時間を予約する感じです。

スケジュールを立てても、割り込みの仕事が入ったり、問い合わせを受けたりで予定通りにいかないことがほとんどですが、それでOK。スケジュールは目標という感じです。

今は仕事の終わりに明日やることを書き出してから帰宅します。連休の前は特に大事で、やることリストがあると、休み明けの仕事のスタートがスムーズです。

「急な休み」には「情報共有」

急に病院に行くことになり、後輩の女性に仕事を頼むと、その人が残業する→デートの予定をキャンセル→たび重なると結婚が遅れる→出産も遅れる→私まで不妊になるじゃない!・・・という理屈は予想できます。

不妊治療の大変さを理解してほしいと思う反面、この後輩女性の気持ちもわかります。

そこで、私が考えたのは、普段から自分の仕事を知っておいてもらうこと、つまり、情報共有です。そうすれば、残業時間が短くて済んだり、頼まれた側の負担を減らすことができます。少し時間を遅らせれば、デートを楽しめるかもしれません。

自分の仕事を知っておいてもらうために私がやったのは、「資料は共有サーバに置く」「仕事のメールは他のメンバーにもCC(BCC)を入れる」こと。治療していると急な休みが増えます。仕事の内容を自分しか知らなかったら、他の誰にもお願いすることができません。仕事に穴をあけないためにも、大事なことです。

このような仕事のやり方は、出産、育児、そして介護でも役に立ちます。私は切迫早産で入院したときや育児による短時間勤務の間、とても役に立ちました。ほぼ育児は終わってた現在も、このやり方は続けています。今は残業時間を減らしてできた時間をFineの活動に使っています。たくさんの学びや新しい経験があって、それを自分の仕事に活かせていると感じます。

治療と仕事の両立は大変かもしれませんが、不妊治療が仕事のやり方を見直し、ワークライフバランスを考えるチャンスとなるよう皆さんを応援しています。

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